第226話 事故

「結局、イサイサは何も喋らなかったな……別コボルド──って訳でもないか」


 俺は再び次の敵へ向かって走りながら、先程のことを思い出していた。

 新聞紙ソードを握っていない左手には、まださっきまで感じていた毛皮の感触が残っている。


 ──とりあえずお腹を撫でてのポーズで間違ってなかったんだよな? 撫でられている間、イサイサはおとなしくしてたし。たぶん気持ち良さそうな顔をしてた、よな?


 何せコボルドなので、表情は分かりにくい。ただ、口を開けてはぁはぁと荒い息が漏れていたので、犬系の生き物の反応として考えればお腹を撫でたのは間違ってないはずだ。


 ──いやまてよ。よく考えればこのユシのキャラから見るとイサイサは姉なんだよな……。あれ? もしかして、俺、何か間違えた……


 何だか不安になってくる。念のためメニュー画面を開くも、残念ながらユシではイサイサのステータスを見ることが出来ない。


 そうやってよそ見をして、走っていたせいだろう。気がつくのが遅れてしまった。

 俺は、何かにぶつかってしまう。


 体に感じる、軽い衝撃。


 あわてて周囲を見ると、飛び散った何かが黒いもやにかわっていくところだった。それもすぐに消えていってしまう。


 そのなかで唯一物として目視できたのは、丸いカラフルな何か。

 たぶん水風船だろう。


 しかしそれも空中で黒いもやにかわってそのまま消えてしまう。


 念のためメニューからマップを確認する。敵のアイコンが一つ消えている。


「あー。どうも体当たりで倒しちゃった? そうか。体当たりにも攻撃判定あったのか……」


 どうやら俺は、向かっていた次の敵に、よそ見をしている間にぶつかってそのまま倒してしまったらしい。

 その敵と戦っていたはずの味方のキャラも既に後方、見えないぐらいの位置だった。


「今から戻るのもあれだよな。うん、次いくか」


 俺は済んでしまったことは仕方ないと、諦める。

 そのため、魂の簒奪者と戦闘中だった加藤の横を、通り過ぎてはいたのだが、それが加藤だと俺が気がつくのとはなかった。


 そして、俺は次の最後の敵に向かって、走る方向を変えるのだった。

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