第224話 再会

「さっきの味方キャラたち、何か話してる風だったな……」


 氷のドラゴンを一撃で倒した俺は、次の敵アイコンの位置に向かいながら呟く。

 ここまで精巧に出来ているダンジョン&キングダムなら、もしかしたら攻略のヒントとかを呟いていたのかも、と今さらながらに思ったのだ。


「……いや、そうでも無いか。ゲームとしては微妙な調整のところも多いし」


 俺は一瞬、戻るか悩むも、止めておく。


 ──さっきのドラゴンもボス級の敵と考えるには耐久が低すぎたしな。ノーマルの敵として考えても、ああいう一撃で倒せるのは無双する系のザコ敵と決まっているし。


 そんなことを考えながら雪上を駆けているとすぐに次の戦っている敵がみえてくる。


 ──おっ、あのぶちのコボルド。あれ、イサイサだよね。でも、何でこんなところにいるんだ? 確かダンジョンの外に出てたよね? 似た見た目の味方キャラかな。


 イサイサは不思議な戦い方をしていた。パッと見、左右の耳それぞれから伸びた二本のチェーンの先に剣と杖がついていて、それがリビングソード風の動きで相手に攻撃しているのだ。


 イサイサと対峙している敵は一見、スマホを持った女子高生風だ。

 しかしユシの鼻にはその敵から、独特の悪臭がする。まるで人の見た目をした人喰いの化け物のような、臭い。


「まあ、敵だというのは分かりやすいね。──やあ、イサイサ、だよね?」


 俺は敵に押され気味のイサイサに通りすぎなら声をかけると、そのまま女子高生風の臭い敵に近寄る。そして、新聞紙ソードを横殴りに振るう。

 鼻が曲がりそうになりながらも、そこは何とか耐え忍ぶ。


 俺の振るった新聞紙ソードへ、スマホをかざしてくる敵。

 なんと、そのスマホから飛び出して来たのは、魚だった。それも非常に醜い見た目をしている。俺の新聞紙ソードに体当たりして軌道をそらそうとしてきるのだろう。


 俺は触れたくないなーと思って、新聞紙ソードを振るうのを止めると、ひょいっとその場でジャンプする。

 目標を見失ったまま直進する醜い魚。俺はそうやって魚をやり過ごすと、新聞紙ソードを、隙だらけの敵へ、今度は振り下ろすようにして叩きつける。


 手応えが、今度も軽い。それでも俺の一撃で、敵は爆散するように飛び散る。

 一瞬、よく俺の家の地下室で見かける黒いもやのようなものへと飛び散ったものがかわりかけるも、そのまま空気に溶けるようにして消えていく。


 ──さっきのドラゴンと倒したときのエフェクトご違うな。何か意味があるのかね


 俺が不思議に思っている間に、空気に飛び出して帰る場所をなくした醜い魚に、イサイサの耳から伸びた剣が刺さる。それも、ビクビクと串刺しになって数回痙攣したのち、剣に吸収されるように消えていく。


 ──うわ、あんな気持ち悪いのよく倒せるなー。


 ある種、尊敬の気持ちでイサイサを見つめていると、無言のままこちらを見返してくるイサイサ。何度か話し出しそうに口をパクパクしているが、結局無言のままだ。そして、なぜかその場でごろんとお腹を見せるようにして仰向けに寝始めるイサイサ。


 ──あー。これは、あれだ。腹を撫でろって言う犬的なあれかっ。なにか、こういうイベントなのかな。でも、何でしゃべらないのかな……


 俺は不思議に思いながらも近づくと、軽くイサイサのお腹をワシャワシャしてあげるのだった。

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