第219話 雪合戦
見下ろすクロは、そのものと目が合う。
それは、氷の体をしたドラゴンだった。その半透明な体内、首のつけねのあたりに、おぼろの姿が見える。
あだむと緑川により倒された魂の簒奪者から現れたものが、炎の体を持つドラゴンだったことから推察すると、眼下の氷のドラゴンはそれと同等かそれ以上の存在の可能性がある。
「あれがユウト様がご旅行に行かれた際にちょっかいを出してきた魂の簒奪者の成れの果てであれば、その存在自体が許しがたいものですね」
そう、クロが呟くのとほぼ同時に、氷のドラゴンが口を開くと、その口先に何かが集まり始める。
「ドラゴンブレス──いえ、あれは雪玉ですか!?」
クロの身長の二倍はあろうかという大きな雪玉が形成され、射出される。
急降下し、ギリギリでそれを避けようとするクロ。
しかし、巨大雪玉の速度はクロの想定を大きく越えていた。
黒雪だるまを形成していたワケミタマドローン群の一部に、その巨大雪玉がかする。
それだけで、ワケミタマドローン数体が弾け飛んでしまう。
地面すれすれまで降下したクロは、そのまま地を這うように飛行し、氷のドラゴンへ近づこうと試みる。
そこへ氷のドラゴンより撃ち込まれる、雪玉の第二射。
今度は、雪玉の大きさ自体はクロの身長程度だ。しかし数が多い。
断続的に射出された雪玉が、次々にクロへと襲いかかる。
堪らず接近するコースを変更し、大きく旋回して雪玉を避けるコースをとるクロ。
その軌道に添うようにして撃ち込まれていく雪玉。今回は幸いなことにクロは雪玉の回避に成功する。
しかしクロが避けた雪玉によって、大地が抉れ、樹木がなぎ倒されていく。
「この威力からみて、ただの雪の塊ではないようです。けれど、当たらなければ問題ありません」
まるでそれがフラグだったかのように、氷のドラゴンの口元で生成される雪玉のサイズが変わる。
「──これは、回避に骨が折れそうです」
現れたのは、人の拳サイズの雪玉だった。しかし数が桁違いだった。数えきれないほど多数の雪玉が生成されると、それらが一斉に射出されてくる。
まるで散弾銃のようなそれに、クロは回避が間に合わないことを悟る。
クロは自身の体を覆っていたワケミタマドローンの大部分を体の前面、雪玉のくる方へと展開させる。
傘のようになったワケミタマドローンへ、雪玉が殺到する。
激しい衝突音が、響く。それはまるで金属同士が激しくぶつかり合った時のような耳障りな音。
それがいくつもいくつも重なりあうように響く。
雪玉の一斉射が終わった時、クロの周りには僅かな数のワケミタマドローンしか残されていなかった。
その大部分は雪玉の衝突によってひしゃげ、破壊され大地に無惨な姿をさらしている。
しかし、それでもクロ自身は無傷で耐えきっていた。そしてすぐさま、新たなワケミタマドローンを産み出そうとするクロ。
しかしそのときにはすでに、氷のドラゴンの口元には同じ数だけの雪玉が浮かんでいた。
散弾銃のような雪玉の第二射が、再び放たれた。
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