第218話 黒雪だるま、空を舞う

 上空へと舞い上がったクロのもとへ、散開していたワケミタマドローンから次々に情報が届けられる。


「みなさん、善戦されていますが……。急がなければなりません──」


 ワケミタマドローンより映像として届けられた各、魂の簒奪者者との戦い。いぶ、加藤とイサイサの三名とも、それぞれ苦戦している。


 一方、氷漬けにされてしまったシロたちのもとへは、ダークコボルドたちが無事に到着したようだ。しかしこちらも救助活動は難航しているようだった。

 幸いなことに、全身の氷はすぐに剥離され、シロたちも抱えられたままだったダークコボルドたちも命に別状はなさそうだった。ただ、不思議なことに意識が戻らない様子が見える。


「あの加藤が雪女とよんだ魂の簒奪者の攻撃の本質は、どうやら物理的に氷漬けにするだけではなさそうですね。すると、いま一番危険なのはいぶ殿……」


 ドローンであった時の本能のままに情報収集と分析をするクロ。しかし現状、収集した情報が少なく、クロとしても打開策といえるものを導き出せないでいた。


「どうやら綺麗に戦力を分断されてしまいました。この状況を打破できるとすれば……。おぼろを解放し、そこに秘められているはずの進化律の力の一部をもって大穴ダンジョンへと『ダンジョン&キングダム』の接続を復旧させること。そうすれば、あとは……」


 その推察の先は、自らの禁忌に触れると思考を止めるクロ。

 すでに一度、頼るべきではないのに頼ってしまっているのだ。


 ユウトの安寧。ドローンであった時は何よりの至上命題だったそれが、人となったクロのなかでは、いま、徐々に揺らぎつつあった。


 そして、その要因は複数ある。そのことで事態はより複雑化していた。


 クロ自身の、複数の人々との繋がりから生まれる情。

 ユウト自身が関わりのある者たちに不幸なことがあった場合、ユウトが感じるであろう感情が推察出来るようになってしまったこと。

 そして何より、一人の人間としての、クロの抱えるユウトへの抑えきれない感情。


 結論の見えぬまま、黒雪だるまは空を舞う。


 そしてついに、その眼科に、囚われたおぼろの姿が見えてきた。


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