第217話 イサイサVS魂の簒奪者

 次々に飛来する水風船を、必死に避け続ける加藤。ちらりと短槍の様子を確認するも、相変わらずオレンジ色の液体から発火した炎は消えていない。ただ、先程よりその炎の勢いは明らかに弱まっていた。

 そんな加藤のすぐそばで、水風船の中身が破裂し、中の液体が飛び散る。

 一部、その液体が加藤に触れるも、幸運なことにそれはただの水だった。結果としても、加藤の体温をわずかに奪うだけだった。


 しかしそれはごく希な幸運だった。ほとんどの水風船の中身が、先程のように付着した部分から火がつくオレンジ色の液体のように何らかの害のあるものだ。


「中身は、ランダムなのかっ!」


 避けながら思わずそうこぼす加藤。ちょうどいま加藤がギリギリで避けた水風船からは薄水色の液体が飛び散った。それはまるで過冷却されていたかのように付着部分で氷を形成していく。

 ただ、周囲が雪に覆われていることもあって、それは他の水風船に比べても非常に地味だった。


 そうして加藤とテキ屋が一進一退の攻防を繰り広げる奥では、イサイサとクロの前に最後の魂の簒奪者が立ち塞がっていた。


「クロ様。ここは私が。時間稼ぎをします。クロ様は、おぼろ様のところへ。たぶん、他の方たちも、あの様子だと時間稼ぎが精一杯のようですから」

「──わかりました、イサイサさん。頼みます」


 先へと告げるイサイサに感謝を伝え、クロはその身を空へと進める。


 全身を覆うワケミタマドローンの力で上空を舞うその姿は、まさに空飛ぶ黒雪だるまだった。


 最後の魂の簒奪者──女子高生のような制服を身にまとった少女だ。その女子高生は手にしたスマホのような板の画面を空飛ぶ黒雪だるまへと向ける。


「させません」


 イサイサの耳から伸びたチェーンがその長さを増し、その先端についていた錫杖が女子高生を打ちすえようと振るわれる。

 スマホの向きを迫りくるその錫杖へと代える女子高生。スマホから何かが高速で現れると錫杖を痛打し、跳ね返されてしまう。


「ふむ、速いですね。でも残念でした、錫杖の支配は一瞬の接触でも有効ですよ──あら」


 不思議そうな声を上げるイサイサ。

 支配したはずの何かが次の瞬間、自身の支配下から外れる感触がしたのだ。


「そうですか。そのスマホへ戻ったからですか……さすが、魂の簒奪者です。厄介ですね。ではこれはどうですか」


 イサイサの触れたのは、反対の耳から伸びたチェーン。そこから伸びた先にある大剣が、もとのサイズに戻りながら女子高生をスマホごと切断しようと振るわれる。

 しかしそれも同じ様に、女子高生のスマホから高速で飛び出した何かによって弾かれてしまう。


「こちらも、ダメですか。スマホに戻るとリセットされてしまうというのは、本当に厄介です」


 呟きながらも、イサイサは二振りの七武器を振るうことを止めない。縦横無尽に襲いかかる大剣と錫杖。

 しかし女子高生は落ち着いた様子でただスマホをかざす。

 それだけで、イサイサの攻撃はすべて防がれてしまっていた。


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