第216話 加藤VS魂の簒奪者
「イサイサ、離れてっ」
舞い散る雪を吹き飛ばす勢いで、現れた人影のうちの一つが、急速に加藤たちへと迫ってくる。
その敵は、老年に差し掛かったぐらいの年格好の男性の姿で、まるでお祭りの出店で働いているかのような、テキ屋ふうの格好をしている。
テキ屋のその左右の手には、カラフルな手のひらサイズの球体が乗っている。水風船のようなそれを、叩きつけるようにして、突き出してくる。
イサイサを急いでおろした加藤は、彼女たちを庇うようにして前に出ると、短槍を構える。
ただ一つ、問題があった。武器としての槍の扱いに、加藤は慣れていないのだ。
中途半端に敵へと向けた短槍の穂先と、水風船が触れる。当然のように、水風船が破裂する。
しかし加藤にとってはついていないことに、その水風船の中身はただの水ではなかった。
現れたのは、オレンジ色の液体。それが飛び散ると、付着した箇所から次々に発火していく。
「うおっ、あつっ、あっつっ!」
幸いなことに、そのオレンジ色の液体は加藤自身やその服に付着することはなかったが、短槍にはベッタリと降り注ぎ、短槍は炎に包まれてしまう。
持ち手を伝わってくる熱さのあまり、思わず槍を手放してしまう加藤。
雪の積もった地面へと放り出された短槍は、雪でそのオレンジ色の炎が消えることなく、轟々と炎を上げ続ける。
その隙をつくように、テキ屋が反対の手にした水風船を加藤に叩きつけようと繰り出す。水風船の中を、何かの液体がたゆたうように揺れる。
とっさに加藤も手を突きだすと、テキ屋の突きだされてきた片手をつかみ、ユニークスキルを発動する。
「空白!」
偏頭痛を代償に発動したユニークスキル空白。加藤の手に触れていたテキ屋の片腕。そのなかにスペースが生じることで、その腕の筋肉と骨が拡張し、弾け飛ぶ。
その手に握られたままだった水風船が、加藤の顔面をかするようにして、吹き飛んでいく。
そのまま地面に叩きたけられた水風船が破裂する。
中から弾け出たのは緑色の液体。
沸々と泡立つそれが、同じ場所に飛んでいったテキ屋の片腕に触れると、ジュワっと音を立て、腕が溶けていく。
「酸、か……。イテテ。厄介だ……」
偏頭痛に頭を抑える加藤。
片腕を失ったテキ屋だが、痛がった様子もなくどこからか再び水風船を取り出す。
今度は振りかぶり、水風船を投擲する姿勢を取るテキ屋。
「うわっ、ちょっとたんまっ」
思わず声を上げるも、当然待ってくれることもなく、水風船が飛来してくる。
それも一つではなかった。
テキ屋が水風船を投げるたびに再びどこからかその手に水風船が現れるのだ。
連続して投擲された水風船がいくつも加藤へと迫ってきていた。
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