第215話 最深部の戦い

「魂の簒奪者です。それも、複数。そしておぼろは、この魂の簒奪者たちの向こうに」


 いぶたちに告げるクロ。

 見た目は真っ黒な雪だるまだが、先程までの凍えて語尾が震えることがなくなったせいか、その声は冷静さを取り戻していた。


 視界をおおう吹雪をかき分けるように現れた最初の魂の簒奪者は、ゴシックなドレスをまとった妙齢の女性だった。

 白ゴスの装いに、真っ白な肌に真っ白な髪。舞い散る雪と相まって、とても視認しにくい。ただ、その瞳だけは真っ赤に輝いて、まるでそれだけが宙に浮いているかのようだ。


「なにあれー」「ちょっとシロたちのアイデンティティーの危機?」「むかつくねー」「だねー。これはシロたちが片付けないとー」


 七武器たる大鋏を構えた白銀のシロを筆頭に、他のシロたちが口々に文句を言いながらひと塊になってその魂の簒奪者へと迫る。

 その時だった。

 白ゴスが、片腕を振るう。

 次の瞬間、真っ白なゴスロリドレスから大量の冷気と吹雪が巻き起こり、シロたちを包み込む。


「っ!」


 一瞬にして、シロたちが全員、まるで氷漬けになったかのように、その全身が氷で覆われてしまう。


 さらに反対の腕を振るう白ゴス。するとシロたちを内部に閉じ込めた氷が意思を持っているかのように浮き上がり、白ゴスから離れる方向、クロがおぼろを見つけたのと真逆の方向へと吹き飛ばされていく。それはまるでシロたちとの戦いを避けたいかのような挙動だった。


「シロッ! なんだ、あの敵──。雪女かっ」


 驚き叫ぶ加藤。その間に、いぶがダークコボルドたちへと指示をだす。


「全軍散解っ! まとまっていると一網打尽。E群以下は、シロたちを追えっ。この魂の簒奪者はいぶちゃんがっ」


 クロと加藤、イサイサにも告げたいぶが、ハルバードを振り上げ、白ゴスへと襲いかかる。白ゴスはそれを迎え撃つように、白ゴスドレスから、同じく冷気と吹雪を吹きだし始める。

 いぶはその冷気の塊をハルバードを高跳びの棒のようにして跳ね上がり、避ける。

 一部、避けきらなかった冷気がいぶを襲う。しかし、いぶの分厚い毛皮がそれをしのぐ。


 そしてそのまま、いぶは宙で縦回転するように体を回すと、その勢いのままに、ハルバードを白ゴスへと叩きつける。


 白ゴスもそれを黙って見てはいなかった。手からツララのような氷がするすると伸び、ぶっとい氷柱となる。振り下ろされたいぶのハルバードを、その氷柱が受け止める。

 激しく打ち合いをつづけ、徐々に離れていくいぶと白ゴス。


「シロたちはどうする、クロっ!」

「シロたちならダークコボルドたちに任せよう。大丈夫。進もう!」


 クロに問いかける加藤に、イサイサが応える。


「残念ながら、次の魂の簒奪者です」


 クロが告げる声と、ほぼ同時。吹雪の奥から二つの人影が現れた。

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