第214話 最深部
クロが大穴ダンジョンの最深部に降り立つと、そこは一面の雪だった。
生まれて初めて見るそれに、クロは思わずきょとんとした顔をする。
そのクロの顔に、風に乗った雪が次々に打ち付けられる。
吹雪気味なせいで、視野が悪い。
「冷たい……くちゅん」
手のひらで、顔についた雪を払いのけるクロ。
「わ、ワケミタマたち」
片手をあげ一言、クロが告げる。寒さのせいか、語尾が少し震えている。
それでも、クロのあげた手のひらから、無事にワケミタマドローンたちが次々に現れはじめる。
現れたワケミタマドローンは、まるでクロを暖めるかのようにその体に次々にくっついて行く。
すぐにクロの全身がワケミタマドローンで覆われていく。
その無数のワケミタマドローンがクロにくっついた姿は、意図せずして、まるで雪だるまのような見た目となっていた。
「周辺、探査」
その黒い雪だるまから、数十体のワケミタマドローンが分離すると、吹雪の中、クロ雪だるまの周囲を螺旋状に旋回し始める。しかし、その数のワケミタマドローンが分離しても、黒い雪だるまは十分な大きさを維持し、クロが寒くないようにその身を完全に覆っていた。
「──この付近には、何もないようです。……ゆきなさい」
クロの指示に従い、ワケミタマドローンが吹雪のなかを散っていく。
その目標は当然、おぼろの探索だった。
「クロ殿、これは?」
「うわー」「寒いよ」「冷たい」「これあれじゃない?」「そうだね、きっとそう」「なんか、クロ様だけ暖かそうなんだけど?」「仕方ないね。シロたちはこうしよう」「あ、確かに温かいや」
クロがワケミタマドローンを送り出すタイミングで、時の狭間の回廊から、いぶとシロたち、そしてダークコボルド達が次々に現れる。
みな、雪を見たことのないゆえか、最初は戸惑った様子だ。
しかしシロたちはすぐに寒さ対策として手近なダークコボルドたちに抱きついていく。その毛深い毛皮に顔を埋めるようにして、一人一匹づつ、ダークコボルドを抱き上げて暖をとるシロたち。
抱き上げられたダークコボルドたちは耳を伏せ、尻尾を丸めて、おとなしくされるがままになっていた。
そして最初は雪に戸惑っていた、いぶと、その他のダークコボルドたちだったが、すぐにソワソワとした様子を見せはじめる。
駆け回りたくなる足を、理性で必死に押さえるコボルドたち。しかしその尻尾は正直だ。パタパタと、せわしなく動いている。
「うわなんだっ! 雪? え、なんだ、その黒い雪だるま!?」
状況が混沌としはじめたなか、回廊からすべてのダークコボルドが出た後に、ついに加藤が最深部へと降り立つ。
「そう、雪だ!」「ゆきゆきっ!」「そんな名前だったね」
騒ぐシロたちをよそに、クロが静かに告げる。
「おぼろを見つけました」
「あっ。その雪だるまみたいなのは、クロか」
「それと、敵です。二時の方向」
華麗にスルーされる加藤のコメント。
動きたくてたまらない様子だったダークコボルド達が勇んだ様子で戦列を整える。
ほぼ同時に、吹雪く雪の中から、クロが告げた敵が現れた。
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