第213話 最深部へ

 回廊を、進んでいた加藤は、片手に持った短槍の穂先が、コツンと何かに当たる感触に足が止まる。


「おっと──」「ほらしっかり。そうだぞー加藤」「うかつー」「うかつー」

「すまんすまん」


 背後にいたシロたちが後ろ向きに少しよろけた加藤の肩を支えてくれている。


「とうやら到着したみたい、で──っ!」


 謝りながら振り返った加藤の目に飛び込んで来たのは、無数のダークコボルドたちを背後に従えた、シロたち。


 その姿は、もう少女と呼べないほど成長していた。

 大人の女性一歩手前といった姿に変貌したシロたち。そのおかげか、よろけた加藤の肩を容易に支えられたようだった。


「どうやら、思ってたより時間が経ったみたいですね。皆立派になったね」


 加藤に抱っこされて背後を見ていなかったイサイサが、シロたちの成長ぶりを祝う。


「──ああ、そうだな。だが、時の狭間の回廊でいくら時間が経っても外の世界では一瞬のはず、なんだろう?」

「そこは加藤の方が、直感的に理解してるんじゃないかな?」


 時の狭間の回廊の特異性に言及する加藤とイサイサの会話に、クロが割り込んでくる。


「加藤、御託は良いです。早く出口を。先頭は私がでます」


 待ちきれないとばかりに勇んだ様子のクロ。その言動には焦りすら滲む。


「クロ様、先頭はこのいぶちゃんが」

「無用です。先の事例を見るに、最深部たるこの先に待ち構えているのは、ユウト様に手出しをして返り討ちにあった者が簒奪して魂の成れの果てでしょう。であれば、いぶ殿は苦手でしょう」


 クロの指摘に、いぶは手にしたハルバードを眺めて無言で頭を下げる。いぶとしても、あだむ同様、攻撃手段が物理に特化しているとのクロの指摘は、否めなかった。


「はい、クロ様。この先、待ち受けるものはそれの可能性が高いと思いますよ」


 無言のいぶの代わりに、加藤に抱っこされたままのイサイサが答える。


「でもクロ様、いいのですか? 私のラブは、いま加藤に向いているのですけれど……」


 全員が時の狭間の回廊から出ないと、加藤のユニークスキルを止められないことを告げるイサイサ。


「問題ありません。神たる進化律を変容させたユニークスキル義体生成ワンタイムボディ。イサイサ殿のユニークスキル博愛ラブの助けがなくとも指向性を持った魂程度、対処してみせます。さあ、加藤」

「……わかった。クロ、気をつけて」


 建前上の義理とはいえ、娘を送り出す父親の顔になった加藤は、せめてもの助けになるようにと大きく槍先を動かして、空間を切り取る。


 現れた、最深部への出口。

 そこへ、クロが飛び込んでいった。

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