第212話 時の狭間の回廊を行軍して
イサイサを抱っこした加藤が降り立ったのは、七色の光を帯びた空間だった。
不思議と先が見通せない。しかしその場にいたダークコボルドたちに、いぶ。そしてクロとシロたちがゆったりと整列しても決して狭くは感じない広さはある。
「あー。人が増えると広がるのか……」
ポツリと呟く加藤。
この時の狭間の回廊を実質作り出している加藤には、自然と今の回廊の状態が理解出来たのだ。
「加藤、おそいぞー」「そうだそうだー」「一瞬が永遠で永遠も一瞬なんだぞー」
シロたちからの変わらぬ口撃に加藤は苦笑を返す。
「加藤殿、いぶちゃん以下ダークコボルドは行軍の準備はオーケー」
「あ、はい──あー、俺が先頭で進ませて頂きますね」
「うん、お願い」
加藤はいぶに返事をするとイサイサを抱っこし、七武器たる短槍を片手で掲げて進み始める。
掲げられた槍の穂先から七色の光が溢れだし、加藤の進む先から新たな回廊が形成されていく。
「歩くのだるくなーい?」「しょうがないよ。シロたちの童謡じゃあこの人数の転移は出来ないしー」「加藤がアナログなの年だからかねー」「だねー」「おじさんの悲哀ってやつかー」
加藤のすぐ後ろを綺麗に二列に並び続くシロたち。その後ろには、いぶを先頭としたダークコボルド達が続く。
静かな回廊に、シロたちの雑談だけが響くなか、ふと加藤が足を止める。
槍が、何かに引っ掛かったような干渉を感じたのだ。
「あのー、いぶさん?」
「いぶちゃんでよい」
答えながら鼻をクンクンとさせるいぶ。
「なるほど、つれてくるので入り口を頼めるかな」
「わかりました」
槍先の引っ掛かった部分を巻き取るようにして、回廊の空間に新たなる出入り口を開ける。
ぱっとそこへと飛び込んでいくいぶ。
すると、次々にその出入り口から新たなダークコボルド達が現れる。
大穴攻略の途中に設営されたベースキャンプにいたコボルドたちだ。
あるものは傷をおい、あるものは四肢に欠損がみられる。しかしその状態でもダークコボルド達の動きは規律がとれていて、錬度の高さがにじみ出ている。
もともと回廊にいたダークコボルド達は、その新たに現れたダークコボルド達を労るように迎える。
その新たなコボルドたちの回廊への合流もすぐにやむ。
探索に赴いたダークコボルドの生存の少なさが目に見えてわかるようだった。
すぐにいぶも、回廊へと戻ってくる。
「あだむはいなかった。緑川殿も。進んでくれ、加藤殿」
「わかりました。でもいいんですか? 回廊をこのまま進むと、見落とす可能性も……」
「成すべきことが、優先」
言葉短く伝えるいぶ。
クロもそれに無言で頷いている。
加藤は無言で肩をすくめると、巻き取っていた出入り口から槍先を抜くと再び歩き出すのだった。
この時のいぶの選択により、緑川とあだむ、メラニーとバーナードたちとの合流がなされることなく、加藤たち一行は大穴最深部へと至ることとなるのだった。
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