第211話 回廊
「
イサイサが、尻餅をついている加藤に向かって手を広げている。
疲労困憊した様子の加藤。しかし既にその愛を一度受けてしまった加藤はおとなしく立ち上がると、イサイサに近づきその抱擁を受け入れる。
加藤が手にした、時の狭間を穿つとされた七武器──短槍。
その本質は、時への干渉だ。
そして、ユウトより授けられたユニークスキル、
空白、それ単体では、加藤の触れた空間を僅かに拡張させることが出来るというスキルだった。例えばモンスターの頭部をその手に掴めば、脳内の空隙を拡大させ、内部から脳を直接破壊出来る、と言うもの。
その、あらゆる防護を貫通して発生する空隙は、まさに必殺の一手だった。至近距離でしか発動できないという難点はあれど、ユニークスキルと呼ばれるにふさわしい効果といえる。
そして今、加藤は空間と時間、双方への干渉手段を手にしていた。さらに、イサイサの
イサイサに抱擁されながら、短槍を腰だめに構え、気合い一閃、突き出す加藤。穂先に宿るは、七色の光。
突き出された槍の穂先によって、時の狭間が拡張させる。
それは一種の回廊となる。
なにもないはずの空間に、入り口が形成される。
不思議な七色の色合いを帯びた光が、通常の空間と、現出した回廊との狭間で煌めいている。
そこへ、次々とダークコボルドたちが飛び込んでいく。
それを眺めるイサイサは、加藤のユニークスキル使用に伴う代償である重度の偏頭痛に顔をしかめている。
そしてついにハラドバスチャンの祭壇の間だったその場所に残るのは、加藤とイサイサの二人だけとなる。
他の者たちは、いぶも、シロたちも、そしてダークコボルドたちもみな、回廊へと踏み込んだあととなる。
「空白、頭が痛くて歩けません」
イサイサが加藤に抱きついたまま告げる。
「はいはい。──なあ、俺たちも行くんだよな?」
「行かないつもりでいるのですか」
「いや、そういう訳じゃないが……」
「怖がるのもわかりますが、ご自身のユニークスキルを信じるべきですよ。大丈夫、この回廊はちゃんと目的地まで通じてますから」
「──はぁ。よいしょ」
ため息をつき、加藤はイサイサを抱き上げるも、短槍を刺したまま維持していた回廊の入り口へと自らの体を押し込むようにして入り込んでいった。
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