第210話 夜もふけて

「うぅ。もういっそぉ、ひとおもいに……」


 俺の制服を着崩すように身にまとい、足を崩して座りながら項垂れて、ぶつぶつと呟く目黒さん。瞳が虚ろだ。

 俺と早川は思わず無言で、視線だけで会話していた。


 ──ちょっとやり過ぎちゃった? てへ

 ──ちょっとじゃないだろ、これ。どうするんだよ

 ──どうしよ……


 結局あのあと、色々とゲームをやったのだが、たまたまその全てで最下位いだったのが、目黒さんだったのだ。

 結果、様々な罰ゲームをその身をもって果たし、今の状態へと至った目黒さん。

 その間、俺と早川はなかなかいい勝負を繰り広げたといえる。


「──二人とも、ゲーム強すぎですぅ。僕の、大人としての威厳が──あぁもう、僕、お嫁にいけないです──」


 ──さ、さすがにお嫁にいけないは言いすぎだよな?

 ──色々あるんだよ、大人の女性にはね


 不思議と早川とのアイコンタクトでの会話はスムーズだ。これまでで一番と言っていいぐらい気持ちが通じている気がする。


「あの、そろそろ時間も遅いですし、終わりにしましょうか?」


 ──え、ちょっとユウト! この状態の目黒さんと私を二人きりにするのっ!?


 早川の視線が、そう言っている。

 いや、仕方ないだろ、と俺は目線だけで応えておく。


「うぅ、はいです……。ユウトくん、これはクリーニングしてお返ししますです……」

「あ、はい」


 身にまとっている俺の制服を手で示すと、拾ったパジャマを腕に抱え、項垂れながら部屋を出ていく目黒さん。


「──目黒さん。少し、一人にしてあげた方がいいかなー」

「え、あ、うん……」


 早川は俺に聞こえるように呟くと、ベッドに腰かけた俺の隣に、そっぽを向きながらぽふっと腰かけてくる。

 早川の重みでベッドがへこむ。そのせいで、俺の腕に、早川の肩が触れる。


 ちらっと俺が早川の方を見ると、早川もちょうどこちらをチラ見したのか、視線が絡まる。


 さっきまでのアイコンタクトが嘘かのように、早川の視線からは急に何も読み取れなくなっていた。


 俺は魅入られたかのように、その深みのある瞳を見つめてしまう。

 そのまま吸い込まれてしまいそうな錯覚に思わず視線をそらしてしまう。


「……あれ?」

「どうしたの、ユウト? あ、繋がってる。直ったのかな」


 俺のそらした視線の先、早川が電源を入れっぱなしだったのだろう。ゲーム機の繋がったディスプレイに、ダンジョン&キングダムのオープニング画面が映っていた。

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