第209話 罰ゲーム

「ま、負けました……です」


 絶望したようにうめく、目黒さん。白熱した俺と早川の戦いのとばっちりを受けたような形になった。ちなみに、僅差ではあるが俺はちゃんと早川にも勝っていた。


「ユウト、お主、なかなかやるな」「早川こそ、かなりえげつないぞ。目黒さんが可哀想だろ」「ふふふ。勝負の世界は無情なのだよ、君。さあ、目黒さん、ここから、ひいてください」


 早川がそんなノリで俺と話したあとに、目黒さんに罰ゲームの書かれたクジを引かせようとしている。


「おい、早川。あんまりひどい内容のは無効だからな」「えー。罰ゲームは絶対だよー」「そ、そんな内容のがあるんです?」


 目黒さんが顔をひきつらせながらも、恐る恐るクジを引く。

 なんだかんだ言って、律儀な人なんだなーと思う。

 俺がそんな感想を抱いている間に、目黒さんはゆっくり折り畳まれた紙を広げ、内容を読み上げる。


「──好きな異性のタイプを。詳しく大声で発表する、です」

「あー。それ来ましたかー」「その罰ゲーム書いたのは、早川だな」「どうでしょー」「わざわざ大声でって入れるところが早川っぽいし」「え、そこでばれるのっ?」「いや、ばれるだろ」


 罰ゲームの内容を読み上げた目黒さんだけじゃなく、なぜか早川まで、顔を赤くしている。俺はどういう意図で早川がその罰ゲームを入れたのか考え始めたところで、急いで考えるのをやめる。

 三人して顔を赤らめている絵面が容易に想像できてしまったのだ。


「はい。では目黒さんどうぞー! 大きい声でお願いしますー」


 早川が吹っ切れたように目黒さんに催促する。


「ええっと、僕の、その。好きなタイプは……美味しいご飯を作ってくれる人っ! ……です」

「ふむふむ。あとは?」

「えぇ!? あ、あとです? えっと、強いけど、その強さをひけらかさない人っ! ……ですぅ」


 大声を出したあとの、目黒さんの少し荒い息だけが、静かな室内に響く。

 なぜか早川は、その目黒さんの好きなタイプの発表に、特に何もコメントしないのだ。

 俺も微妙に絡みづらくて、口を閉じてしまっていた。


「ぅう……。あの、次を……」


 そんな沈黙に耐えかねたように目黒さんが告げる。


「ああ、そうですね。次は、これなんてどうですか?」


 俺も思わず別のゲームを二人に薦めてしまう。

 その選択が、新たな罰ゲームが行われることになるのは理解しつつも、絶妙に居たたまれない雰囲気を変えるのに手頃で、思わず提案してしまったのだ。


 こうして、長い夜はまだまだ続くのだった。

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