第208話 ダンジョン&キングダムの不調
「このダンジョン&キングダムって、聞いたことないやー。ユウトって、マイナーな奴が好きなの? 面白い?」
早川が俺に聞きながら、とても自然にゲーム機の電源を入れる。
先程からアワアワしていた目黒さんが、なぜかそこで急に早川に抱きつく。
「は、早川さんっ。勝手にだめです~」
「ちょっ、目黒さん、くすぐったいですってー」
パジャマ姿の二人による、よくわからない攻防が、俺の目の前で繰り広げられる。
ゲーム機の電源をつけさせまいとする目黒さんと、その妨害を掻い潜りゲーム機の電源をつけようとする早川。
何故二人が争っているのか、意味不明だ。
ただ、その争いを止めなければいけないことだけは間違いなかった。
「あの……大丈夫ですよ、目黒さん。早川、それは面白いけど、シュミレーションっぽいから皆でやるなら別の物の方が良くないか?」
俺は争いを止めようと言葉をかけながら、早川達から、急いで目をそらす。
既に、あまりじっと見ていると、いらぬ疑いを持たれそうな絵面だったのだ。
「ふーん。シュミレーションねー。あれ、ユウト。これ、つかないよ?」
迫る目黒さんを体でガードしながらも、くすぐったそうにクスクス笑っている早川。巧みな体さばきで、目黒さんの妨害を掻い潜りゲーム機の電源をつけた早川だが一転、訝しげに告げる。
「え? ああ、本当だ。どうしたんだろ? 停電したからな。その時、何かあったのかも──」
早川の声に、そらしていた顔を思わず戻してしまう俺。視線に飛び込んできた、目に毒な光景にどぎまぎしながらも、ゲーム機の確認をする。
──本当に、停電した時に壊れちゃった? そうだとしたら、けっこうショックかも……
俺はダンジョン&キングダムにフルダイブしたときに出会ったダークコボルド達を思い出して悲しくなってくる。
ここ最近は、本当にこのゲームにはまって、少ない自由になる時間の大半を注いでプレイしていたのだ。
混沌達によるダンジョンの探索もかなり進んでいて、これからいよいよ佳境だった。
「あー。なんかごめんね、ユウト」
俺がひっそりと落ち込んでいたのが伝わってしまったらしい。
早川がそっと慰めるようにゲーム機の前にしゃがみこんだ俺の背に手を置く。
「いや、大丈夫! ほら、それよりみんなで出来るゲームでもしよう。たしかここら辺に……」
俺は、落ち込んだ気分を振り切って押し入れを開けて、中をあさる。
──まだ俺が子供の頃に父親と遊んだのがしまってたのが、あったはず。
「おっ、あったぞ。どれにする?」
俺が取り出したのは、何種類かのカードゲームやボードゲームを詰め込んでしまっていたダンボール。
「へぇー。色々あるんだ、ユウト。あ、これなんてどう? おと、負けたら当然罰ゲームねー」
煽るように告げる早川に、俺も、そのノリに応える。
「ふっ。受けて立とう」
「お、いったなー。罰ゲームは何にしようかなー」
「……あの、僕もやるんです?」
「当然ですよっ、目黒さん。さあ、まずはさ、罰ゲームを決めよう? それぞれ紙に罰ゲームの内容を書いてクジにしとくのはどう?」
「……随分とこるな、早川」
「こういうのは真剣にやらなきゃ!」
「はいはい。じゃあこれ。紙と鉛筆」
こうして、負けられない戦いの幕が切って落とされたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます