第五部 天道
第196話 第五部 プロローグ
「あ、冷蔵庫、簡単に動きそう」
肩を寄せあっていた早川が腕を伸ばして冷蔵庫を引っ張りながら告げる。
間近に見える早川のワクワクした横顔がどこか眩しい。
「──早川、さすがにまずくないか。これは」
「えー。ユウトは気にならないの?」
「いや、まあ気にはなるけど。ほら、人には知られたくない秘密、あるだろ?」
「ふーん。ユウトもあるの? そういうの」
少しだけ冷蔵庫を引っ張り出したところで、早川は動かすのをやめてくれる。
「いや、俺はないけどさ。単なる平凡な高校生だし。ほら、戻しとこうぜ」
「はーい。……でもさ、この裏にゴキブリが隠れてないかは見た方がいいんじゃない?」
「うっ……ん。そうかも……」
「ほら、少しだけなら大丈夫だよ。目黒さんも準備に時間かかるだろうしさ」
「本当に、少しだぞ」
「じゃあユウトも手伝ってよ。その方が早く済むよ」
「仕方ないなー」
俺は両手で冷蔵庫を抱えるように持つ。隣にいた早川も、再び同じように冷蔵庫を持とうとする。
「──あ……一人で大丈夫だから。その、早川は、入り口の方、見ててくれ」
「あ、うん」
腕に感じていた温かい感触が離れたところで、俺は冷蔵庫を引っ張る。
まるでそう設計されているかのように、スムーズに冷蔵庫が引き出されていく。
「動かしたぞ」
「どう、いた?」
「いや、見当たらないな」
「残念。……やっぱりこれ、ドアだよね。ユウト」
「ああ。さ、冷蔵庫戻すから。早川、下がって」
「ね、少しだけ開けてみようよ? えい」
「あ、こら」
俺の背後から手を伸ばした早川が、ドアらしき壁に触れる。向こう側に開くように移動する壁。
それは、やはりドアだった。
その開いたドアの先が見える。
下へと向かう階段がそこにあった。
【書籍化情報】
GA文庫より3/15発売となります!
イラストはkodamazon様
書籍化に伴いタイトルを変更しました~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます