第195話 第四部エピローグ
完全に雨が止み、晴れ渡った空の下、俺たちは目黒さんたちの家へと来ていた。
早川は俺の家で待っていても良かったのだが、本人はどうしてもいくと言って、きかなかったのだ。
「ごめんなさいです、色々と。これもすぐに洗って返すのです」
俺のジャージを着た目黒さんが申し訳なさそうに告げる。
「いいんですよ、目黒さん。気にしないでください」
俺のかわりになぜか早川がピタリと横にくっつきながら、目黒さんに答えている。
俺たちの方からそっと視線をそらす目黒さん。
家へと入りながら、相変わらず申し訳なさそうに告げる。
「あの、ユウトくん。もしかしたら時間が経ってるので、ゴキブリはどこかに行っちゃったかもなのです……」
「まあ、その時はその時ですよね。お邪魔しますー」「お邪魔します! へぇー。目黒さんたちのおうちはこんな感じなんですね。和風~」
俺は何度かお邪魔しているが、早川は古民家を改築した目黒さんたちの家ははじめてなので、きょろきょろと興味深そうにしている。
「出たのは、こっちの台所です」
案内されたのは入り口から奥へと進んだ部屋。
「やっぱり見当たらないです……」
「少しだけ物とか動かしてもいいですか、目黒さん」
俺は持ってきていた新聞紙ソードを片手に確認する。
「──お願いしますです。僕は……」
「あ、大丈夫ですよ。早川といてください」
「ありがとうです」
そういって台所から出ていく目黒さん。
俺は台所ないの探索を続ける。
とはいえ、複数人でシェアして暮らしているにしては随分と物の少ない台所だった。
──たしか最近は加藤さんのお子さんも暮らしていたんだっけ。こんなんで料理とかできるのかな。まるで仮の宿みたいな物の少なさだ。
戸棚を開ける。ゴキブリの姿は見えない。
そして、食器類も最低限にも満たなそうだ。
──よくよく考えると、色々不思議だよな。大人が三人もこんな山奥でシェアハウスだし。目黒さんの不思議な人脈もだし。
台所を一通り探索し終えても、ゴキブリの気配は微塵もない。
「──あの、ユウトくん」「どう、いた? ユウト」
「早川に目黒さん。いや、いないな」
「そうですか。あ、別件ですけど、警察と消防と連絡がとれまして。雨で崩れた道なんですけど明日には一応通れるようになる見込みです」
「それは良かったです。そんなにスムーズに復旧出来るんですね」
「あー。その、そんなに激しい崩れかたじゃなかった、らしいです」
「私のお母さんの方にも目黒さんが連絡とってくれたの。だから今日はユウトの家に泊まらせてね。目黒さんも来ますよね?」
「そうですね、目黒さんも是非。ここだと、どこにゴキブリが潜んでるかわからないですし」
「うっ……。それじゃあ、お世話になりますです。ちょっと準備をしてきますです」
そういって台所から出ていく目黒さん。
残された俺は早川と顔を見合わせる。
「俺はもう少しゴキブリを探すかな」
「そうなの?」
「おう」
冷蔵庫の隙間を覗き込むようにしながら答える。冷蔵庫の置き方が不思議だ。やけに周囲にスペースがある。台所の大きさのわりに家電が少ないだけかも知れないが。
「ユウトはゴキブリ退治、しときたいんだ」
「そりゃな。頼まれたし。その方が目黒さんも自宅で落ち着いて過ごせるだろ?」
「ふーん。じゃあ私も探すの手伝おうかな」
「……苦手なんじゃないのか?」
「潰すのはお願いね?」
「そりゃもちろん」
「あれ」
「いたかっ?」
「ううん。この冷蔵庫の奥の壁って、ドアになってない?」
「どれどれ?」
俺も顔を早川に近づけ、確認する。鼻孔をくすぐる早川の匂い。
確かに、奥の壁は開きそうだった。
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