第197話 緊急廃棄

「双竜寺課長、エマージェンシー。コードブラックです」


 ようやく自分のオフィスに戻った双竜寺に向かって、相変わらず事務員の服装をした江嶋が告げる。

 安息の時間はどうやらまだまだ訪れないらしい。


「どうしたっ?」

「ダンジョン公社『ゆうちゃんねる』特別対策チーム支部地下、対策分室へと通じる階段を黒き黒及び早川姫が発見。映像出します」


 台所に設置している隠しカメラとマイクによる音声つきの映像が双竜寺のオフィスのモニターへと映し出される。

 そこに映っていたのは、冷蔵庫を退かして地下分室へとつながるドアの前に立つユウトと早川の姿だった。


「目黒は何をしているっ!」

「台所を離れた隙の出来事でした。現状は把握しています。また、黒き黒の影は、ワケミタマドローンを随伴させておりませんでした。そのため発見が遅れたものと思われます」

「そうか、クロは大穴ダンジョンの対応中か」


 ユウトの自宅へワケミタマドローンを侵入させることに成功したクロは、クロコが行っていた大穴ダンジョンとの繋がりを確立しようとしていた。忙しいので話しかけるなと周囲に告げワケミタマドローンの祭壇で結跏趺坐のポーズ中だった。


「課長、ご指示を」

「保安措置Bの三を実行。即時対策分室を破棄する!」


 モニターの中では早川がドアを押してあけている。


「かしこまりました。……破棄完了しました。目黒さんにも保安措置Bの三に基づいて対応を指示しました」


 ユウトの行動を見守る拠点である地下分室の存在がユウトにバレることは、当然良き隣人としてダンジョン公社側からすると最も避けなければならない事態である。


 そのため、複数の保安措置が準備されていた。

 爆破、火災にて完全に破壊するものから、より穏便なものまで。


 今回の双竜寺が選択したものは、穏便な方の処置だった。地下分室ないの機器の遠隔操作でのデータ消却及び粉塵とゴミを散布し、使用していない物置として偽装するもの。


 処置と方針が確定したところで目黒がユウトたちの前に姿を現す。


 目黒から、ドアの先は使用していない地下の物置であるとの説明がユウトと早川に向かってなされる。

 その説明に、納得した様子を見せる早川。そのままお泊まりの準備が出来たと告げる目黒に連れられ、モニターからユウトたちの姿が見えなくなる。


「良かった……粉塵は落ち着くまでに少し時間がかかる。すぐに地下へと行かれていたらかなり怪しまれただろうからな」

「しかしこれで我々は監視の拠点を失ってしまいました。地下分室を復旧させるにも、リスクが高くなったと思われます」

「そうだな。しばらくは地下分室の業務は本社で代行するしかあるまい。至急準備を──」


 双竜寺の話を遮るようにオフィスのドアが乱暴に押し開かれる。

 現れたのは、クロだった。


「双竜寺さん、ヘリを準備下さい」

「──クロ殿、どこへ?」

「大穴ダンジョンへ向かいます。急ぎ、オボロが必要となりました」


 そう告げるクロの顔には珍しく焦りの色が浮かんでいた。

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