第185話 お食事会
「なんかとんだっ」「わー」「きゃっ」「あっちがいいー」「おかわりー」
そこは混沌が支配していた。
生まれたばかりですぐに幼女まで成長した十三人の子供たちの、初めての食事だ。
「課長っ、子供用のスプーン、確保間に合いませんっ」「……手掴みで食べさせておけ」「こ、こぼさないでーっ」「そっち、追加だ。急げ」「コンビニに走りますっ」
イサイサの進言で用意された幼女たちの食事は大人のものとほぼ同じだった。それ自体は、どうやら問題なく食べれている。
その食事マナーをのぞけば。
生まれながらに言葉を話し、常人が知らないような知識まで持っている幼女たちだったが、食べ物の食べ方については、獣と同じだった。
急遽招集されたダンジョン公社の職員たち。加藤を筆頭に、彼らが必死に幼女たちの食事の世話をしている。
その姿はみな必死だった。
相手は見た目は幼女とはいえ、未知の力を秘めた存在。そしてその力を謎の敵の撃破に使ったのだ。現時点では、今後も人類にとって有用な味方たりうる、ユウトに縁あるものたち。
よき隣人たろうとするダンジョン公社の職員たちの必死の奮闘で、食料はあまり無駄にならずに次々に幼女たちの口の中へと消えていっていた。
それを我関せずと遠巻きにしている、イサイサと白羅ゆり。そして目覚めたばかりでまだどこかだるそうなクロ。
「双竜寺課長! 炎のドラゴンと水の竜の消滅を確認しました! しかし……」
報告に現れたのは幸運なことに食事のお世話に招集されずに日常業務を続けていた職員。
その姿に、加藤たちが羨ましそうな、怨念のこもった視線を向ける。
必死にそちらから顔をそらして、双竜寺の方だけを向いている職員。
「しかし、どうした?」
「巨大な線状降水帯が発生。国土の大部分で大雨の警報が発令されます」
「通常の災害対応で収まる範囲か」
「想定降雨量が……今、関係各省に通達されました。こちらです」
「っ!」
「──ユウト様なら、その程度の雨。簡単に止められます。ちょうど目黒さんがお持ちでしょう、お礼状を」
クロが、ストレッチャーに横になったままつげたのは、ナメクジ退治の時にユウトによりかかれた目黒宛のお礼状のことだった。
何か困った際は一度だけ、できる範囲でお手伝いすると、一文が付け加えてある礼状。
それを使えと、クロは言っていた。
「クロ様。長き眠りから目覚めたばかりなのですから安瀬にされていた方が……」
「問題ありません」
イサイサが労るようにクロを止めようとするが、ピシャリとそれを拒絶するクロ。この短時間にイサイサが愛を至上としているのを、クロは把握済みだった。
「クロコはシロたちのお陰で完全に沈黙しました。ただそのせいで現時点でのユウト様のご様子が把握できません。双竜寺さん。何か間違いが起こる前に目黒さんによる介入を望みます」
「……あー。そう、ですね」
室内に微妙な雰囲気が流れるものの、クロの要望を否定できるものは誰もいなかった。
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