第186話 クロの成長と目黒への指示
初めての食事を終えたシロたち。
その体は、食事という栄養をその体へと取り込んだせいか、ついに幼女から少女とよんで差し支えないぐらいまでに、さらなる成長を遂げていた。
そして、なぜか不思議なことに、クロまでも、その体が成長していたのだ。
ストレッチャーの上に横たわったまま、いつの間にか手足が伸び、肉付きも豊かに変貌していたクロの体。それはすでに、ユウトより数歳若いぐらいまでには成長していた。
「クロ殿、その姿は……」
遅ればせながらそれに気がついた双竜寺が驚きの声をあげる。
「クロ様は、シロたちと対になる存在なんだよ」「通りゃんせで、いま、シロたちの変化が共有されてるの」「タイムラグはあるみたいだね」「タイムリミットもでしょ」「クロ様、格好がセクシー」「お洋服を持ってきてあげなきゃ」「そうだそうだ。大の大人がこんなにいるのに、気遣いたりないぞー」「私たちも服がきついぞー」
そんな双竜寺があげた疑問の声に、十三人のシロ達が口々に騒ぎ立てる。慌てて、その場にいたダンジョン公社の職員のうち、男性を中心とした面々が追い出されるようにして、急ぎ手配に走る。
「……服などは些事です。それよりも一刻も早く、目黒さんへ。ユウト様のもとへ行くように、と」
しかしそんなクロが告げたのは、再度の介入要請だった。それまでだるそうなだけだったクロは、シロ達が食事を終えてから急成長したタイミングから、僅かに苦悶の表情を浮かべていた。
自身の体が急速に大きくなったことへの負荷が、関節や筋肉、骨の継続的な痛みとしてクロを襲っているのだ。
しかしその意識は、痛みなど大したことではないとばかりに、自らの主人たるユウトのことで占められていた。
もしクロが受肉しておらずドローンとしてのAIのままであったなら、その自らの判断の基準に無数のエラーが生じたと診断していたことだろう。
現状況下での、目黒による介入要請。
それは、状況を的確に把握し合理性を持った判断をしていたこれまでのクロであったなら、決して要求しなかったことだ。
ユウトの意に反する可能性の高い、その要請。
その判断はユウトの意思を最優先に尊重することを至上とした合理性からは、明らかに外れていた。
その判断の根底に流れるのは、人としてなら当然抱いてもおかしくないもの。
そう、感情だった。
胸を焼くように熱く、そしてある意味、浅ましくて、ドロリとした粘性を持った感情。
自我を確立し、受肉し、そして命ある存在として成長して、初めて抱いたその感情。
それを、初めて感じているクロは、抑える術をまだ、知らなかった。
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