第171話 一掃

「さて、始めるか」

「ユウト、これは何ですか?」

「え、掃除だけど」

「なんでまたそんなことを?」


 俺が掃除の準備を終えた気合いをいれているとクロクロコが話しかけてくる。


「あー。……早川が次の休みに来るんだ」

「──そうですか」

「いや、ほら! 早川、虫が苦手だって言ってたしさ。少しでも綺麗にしとこうかなって」

「──少し、ですか」


 広げられた掃除道具と、ツナギをきて、完全武装した俺の姿をゆっくりと見回すクロ。


「──はぁ」

「なんだよ」

「いえ、何でもありません。お手伝いします。虫が気になるようでしたら、まずは雑草や雑木を完全に刈り取るのがいいかと。虫が沸きやすいですし」

「なるほど! 道具とってくる!」


 俺はありがたいクロの助言にしたがって、草刈り鎌などの庭掃除用の道具を地下の倉庫から急ぎとってくる。


 地下の倉庫はいつもより、なんだかどんより淀んで、黒々とした影がいっぱいあったような感じもした。しかし、急いでいてあまり気にならなかった。

 どちらにしろ軽く手ではらったら消えたから、気のせいだろう。


「とってきた! じゃあ早速庭からやるかな」


 俺は片手に鎌、反対の手にノコギリを持つと庭へと出る。


「今こそ、俺の本気を見せてやるからなっ」


 ちょっとだけテンションが上がっていたのだろう。そんなことを庭に向かって宣言すると、うねうねと庭に蔓延る有象無象を早速借りとり始めたのだった。

 背後から、ついてきたクロのため息が聞こえた気がした。


 ◇◆


「ふぅ、こんなものかな」


 俺は更地と化した庭を前に額の汗を拭う。なかなか厳しい戦いではあったが、からくも勝ちをおさめたと言えるだろう。

 俺の背後には刈り取った有象無象が山となっていた。


「ユウト、もういっぱいです。これ以上は無理です」

「なんだ、クロ。ほらまだまだ。いけるだろ。こう、少し向きを変えてだな。おらっ」


 珍しく泣き言めいたことを言うクロ。俺は生ゴミ処理機の前にいるクロとかわると、力ずくで押し込み始める。

 隙間を埋めるように押し込んで追加で少しゴミが入る。しかしまだまだ刈り取った物は山となっていた。


「後は、……焼くか。クロ、焚き火ってして大丈夫か調べてくれる?」

「日常生活で通常行われる廃棄物の焼却で、軽微なものは法令としては例外的に良いようです。ただ、消防に届け出がいりますね。こちらはダンジョンが出来てから制度改正があったようで、ネットで申請出来るようですね。いま、申請しました」


俺もダンジョン配信で焚き火をしている動画を見たことがあった。確かにいちいちダンジョンから出て直接書類を提出した申請、って言うのは現実的ではない気がする。


「申請、ありがとう。これで大丈夫?」

「後は近隣トラブルにならないように先に焚き火をすることを、ご近所に伝える方がよいみたいです」

「あー。緑川さんのとこか。わかった。ちょっと伝えてくる」

「はい。その間に、消火用の準備をしておきます」

「よろしくー」


 俺は後のことをクロに任せると、緑川さんの家に向かうのだった。

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