第170話 遅刻

「ユウトー。遅刻だぞ」

「ほんっと申し訳ない、早川。お詫びになにかおごるよ」


 俺は待ち合わせ場所に先に来ていた早川に両手を合わせて謝る。


「お、じゃあ。駅前のカフェのジャンボパフェね」

「──いいけど、この前食べたばかりじゃないっけ」

「美味しいものはいくら食べてもいいの。じゃ、早速いこっ」


 プンプンとむくれた顔をしていた早川がころっと笑顔になる。俺はそれをみて、内心ほっとため息をつく。


 俺と早川はどちらからともなく、連れだって歩きだす。


「なんかさー。ユウト、最近前にも増して付き合い悪いよね。そんなに何してるの?」

「え、そうかな。最近は……ちょっと料理にはまっててさ」


 嘘ではない。

 ダンジョン&キングダムの中で獲得した美味しそうなモンスター素材を、ハラドバスチャンの厨房に置いておくとダークコボルドたちが料理してくれるのだ。

 それをつまみ食いしては、あまりの旨さに毎回感動している。


 特にベヒーモス系の肉が旨い。豚とも牛とも違った旨味に満ちていて、食べた肉料理はどれも絶品だった。

 ステーキ。串焼き。しょうが焼き。残念ながらコボルドたちは白米を食べないようで、丼物がないのが唯一の不満。


 ──今度、交易で米を輸入する解放条件をいろいろと試さなきゃ。


 そしてダンジョン&キングダムにフルダイブして料理を味わう度に、現実世界でも再現できないか試している、という訳だ。


「へー。意外! ユウトが自炊してるとか、お弁当とか自作してるのは知ってたけど、そんなハマるほどなんだ」

「まあ、ちょっと食べたことないぐらい美味しいもの食べちゃってさ。なんとかそれを再現できないかいろいろ試行錯誤してるんだよね」

「え、なにそれ羨ましいー。どっか美味しいお店行ったの?」

「まあ、そんなとこ」

「いいないいなー。羨ましいなー」

「はは。じゃあせめて、今度うちにごはん食べに来るか?」


 俺は軽い気持ちで誘ってみる。どうせ虫が沢山出るから、嫌って言われるだろうと思いながら。


「え、いいの? いくいく!」


 はしゃいだ様子の早川。その返事はまさかの乗り気だった。

 俺はあれっと思いながらも、せっかく来てくれるなら最大限のおもてなしをするかと考えながら告げる。


「じゃあ、次の休みにする? 一応ちゃんと食材とか準備しとくよ」

「その日なら大丈夫! 楽しみだなー」


 そんなことを話ながら歩いていると駅前のカフェが見えてきた。

 そうしてとりとめのない話をしながら、俺はカフェで早川がペロリとジャンボパフェを食べるのを眺めるのだった。


 ──食材、多めに準備しとくか。

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