第169話 ソラミミ

「白羅さんっ! どうやってここに! いくら貴女でも、ここは部外者立ち入り禁止だ!」


 イサイサの視線をおって振り向いた双竜寺が語気鋭く告げる。

 そんなことはお構い無しとばかりに、朗らかに応じる白羅ゆり。


「こんにちは、双竜寺課長。もちろん、私のユニークスキルによって、ですよ。ご存知でしょう? 空耳ミスヒアリングのことは」


 ぐっと詰まる双竜寺。


「……もちろんです。ハードラックやハローフューチャーと並ぶ運命操作系。その制約と代償の多さの代わりに必ず、ソラミミした運命が必ず実現するというユニークスキル。いったい、誰の発言をソラミミしたのですか」

「もちろん、ユウトさんですよ。彼は最も力ある存在、でしょう?」

「そうか、あの時か……。いったいなんと聞こえたか、お教えいただいても?」


 加藤は、そんな二人のやり取りを聞きながら、自らの近接戦闘特化のユニークスキルの発動を構える。そして、そっと双竜寺に確認をとる。

 OKが出れば、いつでも動けるようにしながら。


「課長、いいんですかい? 追い出さなくて」

「ここに白羅さんがいることがユニークスキルによる運命なら、そんなことは無駄だ」

「……わかりました」

「あらあら。ユニークスキルを使われるのでしたら私の博愛ラブを与えようと思ったのですけど」

「結構ですっ」


 そんな加藤に少しからかうように声をかけるイサイサ。


「ふふ。そういう訳で、私はここに居てよろしいようね。さて、ソラミミしたのはユウトさんの名乗って頂いたお名前です。白羽黝人シラハユウト


 その場いる誰もが黙り、白羅の次の言葉に耳を傾ける。

 しんとした室内に、処置室から届く野太い悲鳴だけが響いている。


「私のユニークスキルで、『シロはクロと』とソラミミしましたの。クロさんは、今こちらの施設にいらっしゃるのでしょう? そしてこれから産まれてくる女の子たち。彼女たちたちこそが、クロさんと対となる『シロ』たる存在なのですよね、イサイサさん」


 白羅ゆりの問いにただ、微笑みで返すイサイサ。

 白羅ゆりも、それだけで満足したように笑っている。


「いや、それ。耳悪すぎないか。というか、漢字の読み方が変わってるから、そもそも空耳じゃないんじゃ……」


 そんな加藤のツッコミは、残念ながら全員からスルーされてしまったのだった。


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