第168話 ベビーラッシュ
「課長、これはいったいなんの騒ぎですか」
「加藤か。見ての通り、出産が始まる。帝王切開のオペのための執刀医の確保、ご苦労だったな」
「いえ、いいんです。クロも今は大分落ち着いていて。手は空いていたんで……。それであの、妊婦さんたちは?」
「彼らだ」
「かれ、ら?」
無事にダンジョン公社へと到着した双竜寺は、地下の専用室へと妊夫たちが運び込まれていく様子を真剣な眼差しで見ていた。その横では加藤が呆けたように左右を見回している。
今回の輸送は、タイムリミット的には本当にギリギリだった。
イサイサによって追加で懐妊させられた襲撃犯たちはまだしも、最初に懐妊した妊夫たちの胎児たちはとうに出産適正体重を超え、更に成長を続けていたのだ。
生めない生みの苦しみに喘ぐ、野太い悲鳴が響くトラックに乗りながら、双竜寺はイサイサにした約束を果たせるか否かの瀬戸際に、冷や汗が止まらなかったのだ。
しかし、なんとか破裂することなく間に合った妊夫たち。あとは、動揺を隠せない執刀医たちがオペでミスをしないことを祈るばかりだった。
そんな双竜寺の悩みの根元たるイサイサが、二人のもとへと近づいてくる。
「こんにちは。スペースさん」
「……」
無言で声をかけてきたイサイサを見つめる加藤。
「イサイサ殿。こちらは私の部下の加藤だ。ユニークスキルのことははやはり、匂いで、ですかな」
双竜寺が取りなすように二人に向かって話す。部下である加藤が警戒するのは当然だとは思いつつも、そんな常識が通じる相手ではないのだということをそれとなく加藤に伝えるように言葉を選ぶ双竜寺。
「そうです。数多の熟成された甘い果実の残り香のような香りがしますね。私と同じで偉大なるお方から授かって日が浅く、どうやらまだ、あまり使いこなせてないのですね」
「──どうも」
思いっきりぶっきらぼうに応える加藤。
「加藤、お前……。はぁ、イサイサ殿、申し訳ない」
ユニークスキル持ちである加藤が最大限の警戒をすることの妥当性も、当然認識している双竜寺は流石に強くは言えないようだ。
「ふふ。構いません。私の
そういって最後に処置室に搬入されていく妊夫をちらりとみるイサイサ。
「そういえば、もう一つ、香りがしますね。強く激しい、腐敗臭の一歩手前のような情熱的な香りです」
そういってくるりと振りかえるイサイサ。
その視線の先には、本来ダンジョン公社の深部たるこの場所にいるはずのない人物。
「こんにちは。
かつてユウトに下野の国立博物館で接触した色氏名が一席、白羅家の当主たる白羅ゆりが、喜色満面でイサイサへと近づいてきた。
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