第167話 緑川VS魂の簒奪者
「私が一瞬だけ注意を引き付けます! その間にポーションを」
そう叫んで緑川が馬車を飛び出す。
手にした薙刀をアスファルト風の大地の割れ目に差し込むようにして、その身が高く宙を舞う。
「助太刀しますっ!」
「感謝するっ」
緑川とあだむの、一瞬の交錯。その僅な間の間に、最小限の言葉を交わす。
あだむを飛び越えた緑川の狙いは、魂の簒奪者ではなかった。その手前、そしてかなりの高さへと至る緑川の体。
空中に舞ったまま、縦に一回転するようにして、薙刀が振るわれる。
その刃が捉えたのは、古びた電柱から延びた数本の電線。
幸運なことに緑川は感電することなく、薙刀の刃が電線を切断する。
そしてちょうどそのタイミングで、あだむを追っていた魂の簒奪者へと、電線がぶらんと垂れ下がる。
電線の切断部分が魂の簒奪者たるスーツ姿のサラリーマン風の生物へと、触れる。
一瞬の閃光。
魂の簒奪者のまとうスーツから、火がでる。
火をまとったまま、わずかに体を硬直させる魂の簒奪者。
しかし、それは、本当に短い時間だった。
すぐさま、火のまだ回っていないビジネスバッグを振りまわして電線を振り払う魂の簒奪者。
じろりと上空の緑川を睨むように見上げてくる。
その緑川の稼いだ短い時間はしかし、あだむがポーションを使用するには十分な時間だった。
失った片腕が生える間も惜しむように反転し、魂の簒奪者へと襲いかかるあだむ。
その斧が振るわれ、刃が魂の簒奪者の持つビジネスバッグとつばぜり合いを始めたときにはまだ、腕が生え治る途中なほど、だ。
「感謝する、ハードラック殿っ」
「まだです!」
つばぜり合いをする、あだむの斧の柄に着地した緑川が、叫び返す。
その緑川の身から、内包する幸運の一部が溢れだそうとしていた。
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