第166話 第??階層

 スレイプニルのひく馬車が壁に激突する寸前だった。

 その複数ある脚のうちの一つが、地面に隠された何かを踏む。


 小さく鳴ったカチッという音。


 次の瞬間、馬車ごと緑川とダークコボルドたち、そしてスレイプニルの姿が消える。


「景色が変わっている? て、転移トラップかっ!」


 馬車を急停車させながら、G323が叫ぶ。


「いてて。ここはどこですか?」

「この見た目、七十階層は超えている、ぜ」

「え、嘘でしょ……」


 H55は、急停車の際に勢い良く馬車から飛び出してしまっていた。しかしごろごろと地面を転がるって、すぐに立ち上がると槍を構える。


 大穴ダンジョンは十階層ごとにその見た目が変化すると先発部隊からの共有された情報にあった。

 七十階層からは、一見するとビルの立ち並ぶ街中のような見た目のダンジョンとなっていた。


 そして今、ちょうど三人の目の前に広がる風景がそれだったのだ。


「行きすぎちまった、みたいだな……」

「いえ、ちょうど良いところに出ました」


 ボリボリと毛皮を掻きながら困った様子のH323に、なぜか端然として緑川が告げる。

 あれほど急な停車にもかかわらず、緑川は打ち身一つ無いようだ。


「あちらです。ポーションの準備をしてあげてください」


 緑川の指差す先。

 立ち並ぶビルの間をのびる道路。

 アスファルト風の大地から立ちのぼる陽炎で、景色が揺らめいてダークコボルド達にはよく見通せない。

 だからだろう。先に二匹のダークコボルドたちは匂いでそれに気がつく。


「あ、あだむ様っ!?」

「おい、あれは戦闘中だぞっ。しかも、こちらに移動している」

「敵は──もしかしてこの匂いが、魂の簒奪者、なのか」


 顔を見合わせるダークコボルド達に、落ち着いた様子で緑川が再び告げる。


「ポーションを。たぶん二本ぐらいは準備を」


 その言葉に我に返った様子で容器の蓋を開け、別に用意した200mlのペットボトルへと注いでいく二人のダークコボルド。それらも人間との交易で手にいれた物だった。


 そのポーションの準備が終わったときには、後退しながら応戦するあだむと、追撃するサラリーマン風の人影が三人のすぐ目の前まで迫っていた。


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