第165話 ゴーゴー!

「G323さん」

「なんでぃ、H55」

「やけに、モンスターが、多くないですかっ!」


 ポーションを満載した馬車の御者台から、槍を振るうH55。


「確かになっ。ほら、そっちいったぜっ」


 答えながら、G232も同じように槍を突きだし、馬車へと近づいたモンスターを屠る。


 馬車は30階層を過ぎて、31階層へと入ったところだった。目標である65階層のベースキャンプまでは約半分来たところだ。


 スレイプニル達の体力はまだ十分あるも、こうもモンスターの襲撃が続くと、ペースを維持するのも一苦労だった。


「まるで、下層からモンスターが押し寄せているみたいじゃないですか?」

「おいおい、不吉なことは言いっこなしだぜ、H55。お前、そっち系のスキル持ちだったか」

「いえ、そんなことは無いんですが……」


 話しながらも、ダークコボルドたち二人の繰り出す槍はとどまることを知らない。一撃で串刺しにすると、振り払うようにして死骸から槍を引き抜き、休む間もなく次のモンスターに向けて槍をつき出す二人。

 まるで馬車の通った軌跡を描くように、数多のモンスターの死骸が連なっていく。


 中には、ベヒーモス系のモンスター数種も混じっており、ユウトの操るシユが見たら勿体ないとため息をついただろう。


「あの……」

「なんです、緑川さん」

「お手伝いなら大丈夫ですよ。どちらかと言えばしっかり捕まっててください」


 緑川の抱えた薙刀を見て、そう声をかけるH55。


「ばかっ、緑川さんに失礼だろ」「いてっ」


 そんなH55の頭をぽかりと軽く殴るG232。


「いえ、いいんです。お二人の技量に比べたら私なんてまだまだなので……。実は、次の次の角なんですが、左に曲がってみませんか?」


 思いもよらない提案に、顔を見合わせる二人のダークコボルド。


「あの、先発しているあだむ様の部隊から、正確な道順の情報が共有されてまして……」

「まあ、まてや、H55。緑川さん、それは緑川さんのユニークスキル、ハードラックで?」

「そうです」

「G232さん? 曲がるんですかっ!?」

「いぶ様も言ってただろが。緑川さんの幸運にあずかるって! ほら、つべこべ言わず曲がるぞ!」


 話しているうちに、その角がすぐそこまで迫る。

 手にした槍で、スレイプニルたちに方向を指示するダークコボルドたち。


 馬車が急旋回しながら、角を左に曲がる。


「行き止まりですよっ」

「そのまま。まっすぐで!」

「いくぜ、つかまれやっ」

「そんなーっ!」


 H55の悲鳴だけを残して、スレイプニル達は壁へと全速力で突っ込んでいった。

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