第163話 ドーバーナとメラニー

「私はドーバーナ。種族はコボルドセイント。どうも、いぶちゃんさん」


 すらりとしたドーベルマン風のコボルドの女性が握手を求めながらいぶに応える。

 あだむといぶ以上の力を秘めた存在として考えにくいほど、明朗な雰囲気だ。


 そして、その自己紹介に周囲にいたダークコボルド達がどよめく。


「ねぇ、セイントって……」「聖人。女性の時は聖女ね」「聖女ってあれでしょ? 聖魔法を使って、回復や結界を張ったり、汚濁を払うんでしょ」


 騒がしいダークコボルド達のなかでも、特に姦しい女子三人の会話。声が大きいのもあって、特に良く響く。どうやら霊草の時に騒ぎすぎてA23に叱られたコボルド女子たちのようだ。


 そんな騒がしい中で、次に白ポメのコボルドが名乗る。


「……メラニー。コボルドヴィラネス」


 かなりぶっきらぼうな口調だ。しかし不思議とその声は良く通り、騒ぎを抜けてその場にいたもの達全員の耳に強い印象を残す。

 まるで、そういう定めにあるかのように。


 そしてあれほど騒いでいたダークコボルド達が今度はなぜか静かになっている。


「ヴィラネスって?」「悪女?」「いえ、悪役令嬢だわ。実在するなんて……」

「しっ。そこ、黙って」


 ひそひそと、それでも話していたダークコボルド女子三人に再びA23の注意が飛ぶ。しかしその注意もどこか、遠慮がちだ。


「ドーバーナさんとメラニーさん。ようこそ、大穴へ。改めてよろしく」


 そんな雰囲気のなかでも、いぶは気にした様子もなく新参の二人に言葉を返す。


「いやー。よろしくって言われてもね。実は困るんだ。私たち、あなた達と馴れ合う気は無いんで」


 にこやかな笑顔のまま、ドーバーナの雰囲気が一変する。


「──そう。雑魚に、用はない」


 メラニーもドーバーナに続く。


「そう。わかった」


 握手していた手を離しながら、何てことは無いという姿勢を崩さない、いぶ。


「二人は二人の道を。偉大なるお方のために」

「へぇー。さすがは原初のコボルドのツガイね。話し、わかる」

「ふん。もう、いく」

「はいはい。メラニーはせっかちね。そんなんじゃ素敵な殿方に巡りあえても逃がしちゃうんじゃない?」

「うるさい」

「まあ、そんなわけで、いぶちゃんさんに、ダークコボルドの人たち。私たちはいくわ。じゃあね」


 フリフリと気楽な様子で手を振りながら、ドーバーナとメラニーはその場を去っていったのだった。

 大穴の深淵を目指して。

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