第162話 ポーションと新たなる混沌
「はぁ、偉大なるお方の香りに包まれているみたい」「しあわせ」「もう、このまま」
大量につまれた霊草と、容器に入った魔素水の周辺を取り囲むダークコボルド達。その一部はとても姦しかった。
「そこっ! 騒いでないで手を動かせ! 事態は一刻を争う。出来たものから順次輸送もあるんだぞっ」
「は、はい!」「わふっ」「すぐやりますっ」
そういって霊草の臭いで騒いでいたダークコボルド女子達に激をとばす、A23。叱られた彼女達もすぐに気合いを入れ直してそれぞれの持ち場に戻って働き始めている。
食料輸送の責任者たるA23まで駆り出して、ダークコボルド達は総力をあげてポーションの作成に勤しんでいた。
「まあ、騒ぐのもわかるがな。この霊草の香り。明らかに偉大なるお方のお住まいで栽培されたものだよな」「ああ、間違いない。魔素水もだろう。所々に偉大なるお方の御手が入られてるよな」「どちらも、魔素の濃度がえげつないな。作ったこのポーションなんて、一口で瀕死の重傷すら完治しちまうんじゃないか」
他のダークコボルドたちも作業の手を動かしながらも、口々に話すのが止められないようだった。
静かな興奮が空間に充満し、皆が浮かされたようになっている。
A23も、それは同じだった。
大穴で確保したモンスター素材と比べても明らかに格の高い素材。どうにも胸が高ぶっている。
とはいえ責任者の一人として、進捗はしっかり守らねばと、浮かれすぎているものがいないか、目を光らすのだった。
ブンブンと振ってしまいそうになる尻尾を、ぎゅっと抑えながら。
◇◆
「この、魂の簒奪者って敵を倒したから、MPが大量に確保されてるのか。一体千MPぐらいか。六千ちょっと、MPある」
「そうですね。あとはコボルド系列の新しい混沌が解放されているはずですよ」
「本当だ。ふーん。クロはどの子がいいとお思う?」
「それはユウトが決めてください」
「それもそうだね。よし、じゃ、この子とこの子と。それぞれ三千使って、作成っと」
◆◇
「な、なんだ!」「偉大なるお方からの、追加の物資か?」
「いや、この臭い。違うっ!」
「これはっ、新たなる混沌の誕生だ。しかも──」
「ああ、これはあだむ様といぶ様よりも、格上だぞっ」
「すぐに、いぶ様をお呼びするんだっ!」
大量の霊草とそこに群がるダークコボルドたちのすぐ近くに現れた、二つの人影。
生まれたばかりの二人の混沌のうち、一人はすらりとした肢体をしたドーベルマン風のコボルトだ。彼女は興味深そうに周囲で騒ぐダークコボルド達を見ている。
もう一人は逆に小さくてとてもフワフワとした白ポメ風のコボルド。しかしその可愛らしさとは裏腹にその瞳は怜悧で、どこか浮世離れした雰囲気が漂ってくる。
「ようこそ、新たなる混沌たち。私はいぶちゃん。名前をきいても?」
異変を察知したのだろう。いぶが、部屋へと入りながら、ユウトによって産み出された新たなるコボルドに話しかけるのだった。
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