第160話 sideあだむ
「第72階層、フロアボス、種別でましたっ! コード、オーダー。
ダークコボルドのなかでも一際体躯の大きな一人が、あだむに告げる。鑑定系統のスキル持ちのA群のダークコボルドなのだろう。
「後退は、なしで」
「あだむ様、しかしこのままではっ」
「被害が出るのは、折り込み済みでしょ? 僕たちはみな、偉大なるお方にこの身の全てを捧げる存在だよ?」
「しかし! このままではこの先の探索にも差し支えますっ」
「はあ、仕方ない。ダークコボルドたちは下げて。僕が出る」
ここまでの戦いで片手を失い隻腕となっていたあだむが、七武器の一たる斧を担いで立ち上がる。
少し億劫そうだ。
「ユーサーパー。因果律の使徒ともなると、やっぱり手強いね~」
あだむ達ダークコボルド軍はその数を減らしながらも大穴の踏破を進めていた。
途中までは何ら障害はなかったのだ。
しかし、66階層に到達した時に状況は一変した。
65階層までにひしめいていたのは、人類にとっては厄災級の脅威となるモンスターたち。しかし、あだむ達ダークコボルド軍にとっては一蹴するだけの存在だった。
問題は、66階層から現れた、ユーサーパー達。
彼らは別格だった。
因果律の使徒として産み出され、魂の簒奪を主目的とする彼らは、あだむ達の基準で言えばオボロと同格の存在。
ここまで、六階層でそれぞれ現れたユーサーパー達を倒すのに、数万いたダークコボルドたちはその数を半減させていた。
息子と娘の数多の死を嘆き悲しむカラドボルグと『闇』は後方、65層に設置したベースキャンプの防衛との名目で下げている。
それは、あだむのわずかばかりの慈悲だった。
あだむが、片手に斧を握りしめてとんっと跳ねる。
ユーサーパーから避難するダークコボルド達を飛び越えるために。
眼下を、戦列を維持したまま後退するダークコボルド達をみてあだむは呟く。
「不思議なものだね。僕たちの存在なんて、本当にたまたま、クロコの企みと偉大なるお方の気まぐれで産み出されたものなのに」
眼前に迫るユーサーパーへと、渾身の一撃を放つあだむ。
このユーサーパーは、人型をしていた。
こんなダンジョンの奥深くで、無数のダークコボルド達を殺戮していたのが信じられないぐらいに、普通の姿だ。
スーツにメガネ。そしてビジネスバッグを片手に下げている。
あだむの渾身の斧の一撃もユーサーパーの掲げたビジネスバッグで受け止められてしまう。
「その身につけているもの一式も、祝福されし武具みたいだね」
斧とビジネスバッグでつばぜり合いをしながら告げられたあだむの軽口に、ビジネスマンの姿をしたユーサーパーは無言だ。
ただ、一歩前に踏み込みながら反対の腕を振るい、あだむの顔面目掛けて拳を叩き込んでくる。
その拳に向かって自ら額を叩きつけるように首を動かすあだむ。
ダンジョンの中で、まるで大型トラック同士がぶつかったかのような衝撃音が響く。
後方へ撥ね飛ばされたあだむが、四肢を縮めてくるくると空中で回転すると、両足で地面に降り立つ。
「これはなかなか骨が折れそうだね……」
首をぽきっとならすと、口調とは裏腹にどこか楽しそうにあだむは再びユーサーパーへと襲いかかるのだった。
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