第159話 輸送部隊

 ダンジョン公社所属の大型トラックが次々と到着し、地面に横たわる外国籍の特殊部隊の男たちが回収されていく。トラックは、静音性能に特化した特別車両だ。

 見た目は相変わらず、宅配のトラックに偽装されていた。ここまで徹底されていると輸送部の責任者の趣味かと疑いが出てくる。


「双竜寺さん、どうして冷蔵庫なんですか?」


 その回収の様子を眺めていたイサイサが質問する。

 隕石の落下は、緑川が去ったあとも結局十数回続いた。

 頭部の同じ箇所に不運にも当たり続けたせいか、イサイサの頭部の一部が赤くなっている。しかし結局、たんこぶにはならなかったようだ。


 それは、ダークコボルドの種族としての基礎能力の高さを物語っていた。


「あれは一見、冷蔵庫に見えるのですが、最新型の黒級危険物品に対応したブラックボックスなのです」


 次々に箱詰めされていく妊夫たちを見ながら答える双竜寺。それにどこか冗談めかして返すイサイサ。


「まあ、お腹の中の女の子たちは皆、良い子ですよ? とっても」

「──ええ、もちろんですとも。ただ、あれは我々が用意できるなかで最も外部からの介入に対して堅固なので──」

「そういうことにしときましょう。私もトラックに乗ってみてもよろしいですか?」

「っ! もちろんです。歓迎します」

「ふふ。あまり歓迎しない方がよろしいかもですよ。私が彼女たちについて行くのは、その方が私の愛をより広域に広められそうだからなので」

「ハハハ……」


 イサイサの返事に思わず乾いた笑い声をあげる双竜寺。とはいえ、それでもイサイサが自ら目の届く場所についてきてくれると言うのは朗報だった。そしてその二人の後ろでは、孔雀蛇乱子はどこかほっとした様子だ。

 ここまでの様子をみて、孔雀蛇乱子一人で背負うにはイサイサの存在と行動はあまりに規格外だった。


「乱子さんもどうもありがとうございました。乱子さんは、このあとはどうされますか? もしあれでしたら、大穴に戻られても良いですよ」

「……いえ、このままついていく、ほげ」

「わかりました。引き続きよろしくお願いしますね」


 当然、ほっとした臭いをイサイサに嗅ぎ付けられて、そう尋ねられる孔雀蛇。しかし孔雀蛇はついていくことを選ぶ。

 そしてそれをも、当然のように受け入れるイサイサ。


「どうも拝見させて頂いていると、冷蔵庫に余裕がありそうですね」

「……そうですね」

「良かった。道中彼女たちに妹が増えても大丈夫ですね」


 それだけ告げると、最後の冷蔵庫とともにトラックに乗り込むイサイサ。その後に、孔雀蛇乱子も続く。


「えっ、それは襲撃があると──」


 その双竜寺の問いは空へと消えていくのだった。

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