第154話 新たな楽しみ

「やっぱり、全然こっちの方が美味しいな。なんでだ」


 俺はダンジョン&キングダムにログインしてユシとして再び厨房へと忍び込んでいた。


 目当ては、角煮だ。

 イサイサと別れたあと、現実世界で自作した角煮。味は、ほどほどだった。


 決して不味いということは無かったのだが、ここで食べたこの角煮の衝撃的な美味しさには到底及ばなかった。


 これでも独り暮らしで料理もそれなりにこなしてきた自負がある。

 ネットに公開されているレシピ通りに作るのには慣れてるし、作った角煮もちゃんと仕上がった自信はある。


 その上での、味の差。


「考えられるのは、素材の差。それとこのユシの嗅覚と味覚の鋭さかな」


 そっと隠身したまま厨房の天井に戻る。

 危なかった。ちょうどつまみ食いをした容器の器をみたダークコボルドの料理人の一人が、中身が足りないぞと、声をあげたところだった。


 ──美味しくて、つい、食べ過ぎちゃった。


 そっとばれないようにして天井を進み、その場を離れる。


「よっと。しかしこうなると、現実世界で頑張るより、ここで美味しい素材を見つけて料理してもらった方が美味しいものを食べられるんじゃないかな」


 俺はそう呟きながら考えたのは、イサイサの事だった。彼女なら素材を持ってきて頼めば料理してくれるかもと思い出したのだ。


「あ、でも外を見たいと言ってたっけ? もう行っちゃったのかな」


 俺は、メニュー画面を切り替えて、魔王シユとしてハラドバスチャン全体の情報を呼び出す。


「あ、表記がお散歩中になってる。同伴者は異邦の探索者の一人か。ふーん。──一応、呼び戻すボタンもあるんだ。よし、料理人はなんとかなりそう。じゃあ次は美味しい素材を探さなきゃだな」


 俺は張り切って大穴の探索に乗り出すことにする。


「あだむ達が進軍しながら大穴のなかを大分探索してくれているみたいだからマップも埋まってるし。武器も前にあだむが作って献上してくれたのをユシでも呼び出せる。あとは途中お腹が空いたとき用につまむものを……」


 俺は離れたばかりの厨房に戻ると、そっと角煮の容器を一つ確保する。小声でもらってくねーと独り言を呟くと意気揚々と初のダンジョン探索に乗り出すのだった。

 美味しい素材を求めて。

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