第143話 七武器の一
僕は自分のもつ、七武器の一つである斧の柄を撫でながらカラドボルグを見守る。
地面に突き刺さった状態の七武器へと歩み寄るカラドボルグ。偉大なる御方より祝福とともに賜りしそれは、残り五振り。
その一つは、短槍だ。
僕が、その香りから推測する、秘められし力。
それは、その短槍は、時の狭間を穿つ。
しかしカラドボルグは短槍の前を通りすぎる。
次の一つは、大剣。
香りし秘めし力は、生命の可能性。
そしてその次の一つは、錫杖。香りし秘めし力は、支配。
しかしどちらも、カラドボルグは通りすぎてしまう。
次の一つは、大鋏。香りし秘めし力。それは、絆を切断。
やはり見向きもせずに通りすぎるカラドボルグ。
そして最後の一振り。
カラドボルグの足が止まる。じっと熱い視線を送るカラドボルグ。
その前に佇む七武器は、まるで闇をまとったかのようで、その姿が見通せない。
一欠片の匂いも、そこからは漂ってこない。
その真っ黒な闇へと、カラドボルグが右手を差し出す。どこか優しげに。
片膝を地面につき。まるで恋人をエスコートするかのように差し出される、カラドボルグの右手。
その手は闇に触れるほんの直前でピタリと止まっている。手のひらを上に向け、手を取ってくれるのを待ち望んでいるかのように。
しばし、何も起きない。
じっと同じ姿勢を続けるカラドボルグ。その熱の帯びた視線は片時も離れない。
次の瞬間だった。
それが蠢く。
真っ黒なそれが、形をかえ、カラドボルグの手のひらの方へとその身を預けるように近づいていく。
そっと呼応するようにカラドボルグの差し出したままの右手が伸びる。まだ、どこか迷う風だったそれを、カラドボルグがしっかりと掴む。
手を握り、優しく立ち上がるカラドボルグ。
その動きにあわせて、それが大地を離れ、カラドボルグの右手へと宿る。
カラドボルグがこちらを振り向く。喜びに満ちた表情。しかしその声音は、その手にした力と、その双肩にかかる責任をしっかりと自覚したように重々しい。
「父よ。我が選びし七武器は『闇』。彼女とともに千軍万馬の献身を偉大なる御方に捧げることを、ここに誓います」
「うん、カラドボルグ。見事」
僕の横ではいぶが、そっと自身の目じりに滲む涙を、拭っていた。
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