第142話 名付けと種族進化

「……うん、思い付かないっ!」


 さんざん悩んだあげく、俺は自分の発想力のなさに諦めの境地へと至っていた。名前が、さっぱり思い付かなかったのだ。そもそもゲームとかでキャラクターに名前をつけるときは一からつけるが、今回はすでに幼名がある。


 それを活かしてあげようとすると、途端になにも思い浮かばなくなるのだ。


 ──昔の人が、元服の時に自分の名前を一文字あげた気分がなんとなくわかる。だって考えるのが大変過ぎる。


 そんな適当な感想を抱きながら、それでも何とかひねり出した名前をコントローラーを手に取り、入力していく。

 ただ、カイたち三人の幼名はほとんど活かせてはいない名付けだ。


「カイは、カラドボルグ。ベルはカリヨン。ロトはフロストっと。あだむ、いぶ。すまん。二人がつけた幼名を活かせる名前は、全然思い付かなかったよ」


 俺は独りごととして、画面の向こうのあだむといぶに謝っておく。


「ああっ、考えるのに時間かけすぎたっ!」


 気がつけばかなり時間が経っていた。俺は名残惜しい気持ちはありつつも、夕食の支度をせねばと、そこでゲームを中断するのだった。


【sideあだむ】


 偉大なる御方より賜りし武器を祀った祭壇の間。僕の目の前には、息子たちが並んでいる。

 三人ともとても誇らしげだ。


 ──それも当然だね。創造主たる偉大なる御方より真名を授かり、成人を認められたのだ。僕も、もう彼らを子供扱い方は出来ないな。


 僕の隣に立ついぶは、とても真剣な眼差しで息子たちを見ていた。

 いぶは、息子たちの力量を正確に把握しようとしているのだろう。

 これから本格化するであろう大穴の探索。そこで起こりうる戦いで息子たちが少しでも長く生き残るように。もし死なねばならない時には、少しでも偉大なる御方の役に立つように。


 それがいぶなりの母親としての愛なのだと、僕は匂いを通じて理解する。

 その愛は当然息子たちも同じように理解しているのだろう。三人とも自信に満ちてはいるが気を引きしめた様子で、傲りは感じられない。


 僕は、後ろに佇む一番から四番を最後に見る。四人とも、これから何が起こるのだろうと不思議そうにしていた。


「名を」

「はっ。我がうけたまわりし名は、カラドボルグ。種族はコボルドパラティンとなりました。父よ、献身を偉大なる御方へと捧げることを誓います」

「うん。カラドボルグ。七武器に手をかけることを許すよ。一つ、試しなさい」

「はっ」


 僕の言葉に、一番から四番が動揺するのが伝わってくる。

 しかしそんな些事を気にした様子もなく、カラドボルグは地面に刺さった武器の一つへと進み出たのだった。


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