第141話 ネームド
「これ、どういう状況?」
俺は久しぶりに電源をつけた「ダンジョン&キングダム」の画面を見て、首をかしげる。
「たしか、異邦の探索者ってイベントが始まったところだったよね。……探索者、弱すぎない?」
画面ではあだむの指示のもと、ハラムキャンプで『お掃除』に励む探索者四名と、ダンジョンの外へ向かう探索者二名が映っていた。
とてもリアルな質感のあだむたちの映像とは一転して、探索者達の映像はちょっとだけ荒くてチープな感じだった。
他の映像が本当に真に迫っているだけに、それはまるで探索者の映像、特に顔の部分だけ加工されているようにすら感じるほど。
──いや、たぶん制作費とかそっち系の問題でダンジョンとモンスターに開発のリソースを集中させたから、なんだろうけど……
俺がそんなことを考えながら、ハラムキャンプで『お掃除』中の四名の探索者達の姿を眺める。いつの間にかイブが捕まえてきて、繁殖させていた汚物を専門に捕食するスライムの処理を四人の探索者はしていた。
「ふーん。スカベンジャースライムか。スライムが排出したカスの片付けと……放っておくと増えすぎちゃうから、間引くのか。──なるほど、こういうのがあるから、探索者の人たちの画像は荒いのか」
俺は少し納得する。それは、あまり詳細を見たいとは思わない絵面だった。
とりあえず全体的に、茶色い。
特に金ぴかの全身鎧をきた探索者は、足がかなり埋まって動きにくそうだった。
「あれ、これは。不味いのでは?」
もう一組のダンジョンから出ようとしているっぽい探索者の方をみて、俺は思わずそう呟いてしまう。
そちらの二人は今にもモンスターに囲まれてしまいそうだった。
そこで選択肢がポップアップする。
そこには、救援を派遣するか否かの問いが記載されていた。
「あ、助ける場合だと、少しだけMP使うんだ。でもなあ、見殺しはやっぱり気分が良くないし」
これはコントローラーをポチポチ操作して救援の派遣を選択した。
すると画面のなかで、あだむといぶの息子たち──コボルドナイトとコボルドモンクとコボルドメイジの三人が楽しそうに駆け出す。
少し前までいぶの半分ほどの背丈しかなかった三人だったがいつの間にかさらに成長していてあだむといぶに背丈が追い付きそうだ。
しかしその振る舞いはまだどこか子供っぽさが残っていて、今もまるで散歩に出かける子犬のようだった。
武器を手にしたコボルドナイトたち三人があっという間にモンスターに囲まれた探索者達のもとへと到着する。
そこからは圧巻だった。
モンスターに囲まれただけで気絶してしまった探索者二名を守るようにモンスター達と戦い始めるコボルドナイトたち。
三人の連携がとても見事で、もはや戦いというよりもそれは、捕食者による狩りだった。コボルドナイト達よりも何倍も大きなモンスターが、まるで雑魚扱いだ。
そうして、あっという間にそこには蹴散らされたモンスターの残骸と、佇む三人。そして気絶している探索者二名だけが残された。
気絶している探索者達を前に、何か相談している様子のコボルドナイト達。話しながら、くんくん周囲と探索者の匂いを嗅いでいる。
結論が出たようだ。
コボルドナイトとコボルドモンクがそれぞれ気絶している探索者の襟首をつかむと、ずるずると引きずり始める。
どうやらダンジョンの出入口に向かっているようだ。
入り口につくと、コボルドたちは土まみれの探索者達をぽいっと外へと放り出す。
そうして三人は満足げに顔を見合わせると、あだむといぶの元へと戻り始めた。
「うわ……容赦ないわー。あ、コボルドナイト達への報酬?」
画面にミッション成功による報酬っぽいものが表示され始める。
どうやら俺が支払ったMPはコボルドナイトたちへの報酬となるようだ。
「何々、初任務を成功させたことによる成人認定により、幼名のコボルドたちへの名付けを行え、と。ふーん。その名前の種族で、ここから種族進化するのかー」
俺は画面の文字を読み上げる。幼名とか、元服で名前をつけるとか、なんだか古風な設定だ。
コボルドは武士属性でもあるのかと俺は首をかしげる。
「うーん。何て名前にしてあげようかな。えっと、今の三人の幼名はカイと、ベルと、ロトか。これはあだむといぶとでつけたって設定なんだよな──せっかくあだむといぶとがつけてあげた名前ならそれをいかしてあげたいけど……」
そう考えると適当な名前はつけにくいなーと、俺はコントローラーを一度置いて、ゆっくりと三人にあげる名前を考え始めるのだった。
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