第139話 脱落者

 タロマロは立ち去っていく二人の背を見送っていた。


 あだむによって課せられた、一日生き残れ、という課題は結局中断されてしまった。


 その原因。入り口を爆発するようにして入ってきたのはクリムゾンベヒーモスに似た、しかし二回りは大きな巨体だった。


 キングベヒーモス。


 名前だけはタロマロも聞いたことのあるモンスター。部屋に乱入するように現れたのは、ベヒーモス系の最上位種にして、ダンジョン深淵に潜むとされる、それだった。


 クリムゾンベヒーモスとは比べ物にならない威圧感。

 その姿を一目見て、今度ばかりはタロマロも、本当に死を覚悟したほど。それは他の探索者たちも同じだったのだろう。


 クリムゾンベヒーモスですら、恐れるようにじりじりと後退していたぐらいだった。


 ぬっと、部屋へと入り込んできたキングベヒーモス。次の瞬間、その前足を一振りする。

 すると、クリムゾンベヒーモスの頭部がザクロのように弾け飛ぶ。


 それは仲間割れですらなく。まるで路上の邪魔な小石を無造作に蹴り飛ばすかのような仕草。

 一気に部屋に臭気が充満する。


 恐怖のあまりピクリとも動けないタロマロたち。次は自分たちだと、嫌でも理解してしまう。


 しかし結局、そうはならなかった。


 そこへアダムが斧を担いで現れたのだ。クンクンと鼻をならしながら。まるで散歩の途中で立ち寄ったかのように気軽な様子で。


「あーあ。折角ちょうどいい弱いモンスターだったのに。きみ、台無しだよ?」


 まるでキングベヒーモスがいたずらをした子犬であるかのように。圧倒的格下に向かって告げる口調で話しかける、あだむ。

 キングベヒーモスはその言葉の内容は理解してはいないのだろう。ただ、その身から殺気を溢れさせ、あだむの方へ全力で躍りかかる。


 宙を舞う、キングベヒーモスの巨体。


 その巨体が地面についたときには、細切れに裁断されていた。


 殺ったのは、たぶん、あだむだ。

 状況的にみて、まず間違いなく。

 ただ、タロマロの目には、何が起きたのかは全く見えなかった。


 そんな一連の出来事を経て、完全に自信とプライドがポッキリ折れてしまった者が二名いた。

 あだむの再度の問いかけに、立ち去ることを選んだのは世界ランクに名を連ねる者、二人だった。


 逆にアンジェは、タロマロたちとともに残る方を選んだようだった。


 そうして残った四名──乱子、グスダボ、アンジェにタロマロ──の顔を見回して、あだむが告げる。


「人間て不思議だね。残るのは一番から四番なんだ。まあ、いいや。僕についてきて。もう、ここには君たちが遭遇して生き残れるぐらいのモンスターが、残ってないから」


 とても不吉なあだむの言葉。タロマロは思わず立ち去った二人の、消えた方向を見てしまう。


 しかし、すぐにあだむが歩き出す。

 アンジェがタロマロの背を軽くおす。


「行きましょ? タロマロ」

「ああ」


 なぜか待っていてくれたアンジェとともに、タロマロは先にいく乱子とグスダボを追いかけるのだった。

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