第137話 あだむ師匠

 現れた異邦の探索者たちをみて、あだむはため息をつきそうになるのを飲み込む。


 あだむが異邦の探索者たちを待ち受けていたのは、ハラムキャンプの近くの、比較的大きな空間のある部屋だ。


 異邦の探索者たちは、あまりに、弱そうだった。この大穴では、放っておけば数分で命を落としてもおかしくないぐらい。


 ──この六人の人間程度だと、うちの息子たち一人と、ほぼ互角だろうなー。カイなら一人でいける。ベルは互角。ロトは負ける可能性はある、かな。


 斧を担いで仁王立ちになったまま、自分の長男、次男、三男と、目の前の探索者たちの力量を見比べるあだむ。


 くんくんと鼻を鳴らす。


 ──ご命令の匂いの残滓からして、今回の件、概要はクロコの仕込み。そこの一際弱そうな男の知り合いの女性からの提案かな。しかし御選択自体は創造主たる偉大なるお方のもの、か。


 ジェノサイドアント2500体分という、人智を超越した力を持つあだむ。しかし、戦闘に特化したいぶとは異なり、その力の指向性は大きく異なっていた。


 ──それなら、僕はご命令に従うのみ。この弱々しさからみて、この探索者たちをまずは育てなるとだめだね


 とりあえずの方向性を決めたあだむは口を開く。


「僕はあだむ。君たちのことは番号で呼ぶ。弱い順に一番、二番、三番、四番、五番、六番」


 一人一人、指差しながら告げる。

 なにやら文句を言い始める一番から六番。


 その時だった。暗がりから巨大な影が現れる。

 大穴に生息しているモンスターのクリムゾンベヒーモスだ。


 クジラとカバの合の子のような見た目をしている。匂いで、その接近を前々から察知していたあだむと違い、一番から六番は慌てふためいた様子だ。


 それでも果敢にクリムゾンベヒーモスに攻撃を仕掛けようとする一番たち。しかしその攻撃は全く通らない。逆にクリムゾンベヒーモスの身震い一つで弾き飛ばされていく。


「よいしょっと」


 あだむは斧の刃を寝かせた状態で、一振りする。

 クリムゾンベヒーモスの頭部を強打すると、意識を失うクリムゾンベヒーモス。弾き飛ばされた人間たちがよろよろと戻ってくる。


「こんなのに負けてたら探索なんて出来ないよ、君たち。さっさと帰るか、ここで生き残りたいなら僕の言うとおりしてするか、決めて?」


 様々な匂いが、目の前の人間たちから溢れ出す。

 そんなか、一番が一歩前にでる。


 六人の中では一番弱い男。ただ、彼から漂う決意の匂いは本物だった。

 それに感化されたかのように他の五人も前に進み出てくる。


「おっけー。じゃあまずはこの部屋で1日、生き残ること。じゃあね」


 あだむは六人に告げると、気絶させたクリムゾンベヒーモスを叩き起こす。

 そして探索者たちの入ってきた方の入り口へ斧を叩きつけて潰すと、反対の通路から出て、そちらも潰しておく。


 出入り口の無くなった大きめの部屋に、クリムゾンベヒーモスと一緒に取り残されることになる一番から六番。もちろんあだむは隙間から漂う匂いで、中の様子は完璧に把握できる。


 その状態にして、あだむはいぶと息子たちの待つハラムキャンプへと帰るのだった。

 沸き上がる悪態と、ドタバタという騒音をあとにして。


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