第131話 実況のクロコ

 side目黒


『ユウト様によるダンジョン&キングダムが始まりました。全世界でライブ配信をご覧の方々、御刮目を。ユウト様による、新たなる伝説の幕あけです。既に敏いお方はお気づきかも知れませんが、このゲームは虹の地平に新たに誕生した超大型ダンジョンとなる大穴と実際にリンクしております』


 目黒が食い入るように見つめるディスプレイ。ユウトがゲームをする映像に合わせて、クロコの声が解説として流れてくる。


『ユウト様が、新たなるお名前を選ばれました。なんともシンプルで力強い御名でしょうか。魔王シユ様。今後、世界へと轟くことになるお名前として、誠にふさわしい』


 恍惚としたクロコの声。

 一方で、コメント欄は困惑したようなコメントが多い。


 'どういうこと? あのユウト殿が使われているゲーム機はPP7に見えましたが'

 '魔王シユ……'

 'おお、神よ。何が始まるのでしょう'

 '実際にリンク、だと!? ゲームではないということか!?'


『さあ、ユウト様による最初の配下となる混沌の選択です。今ユウト様の保有されている5000あるMP。目安としては1MPで、一体のジェノサイドアントと同程度の強さの混沌を呼び出せます。もちろん、現実の世界に、ですっ』


 高らかに、誇らしげに告げるクロコ。


 'ご、五千匹のジェノサイドアント並っ!?'

 'せ、世界が滅ぶぞ!'

 '終末の到来か──'


 目黒は慌ててコメント欄へと書き込む。クロコへのホットラインが不通の今、これが唯一のクロコとのコンタクトの取り方だった。

 目黒による、これまでの人生で最速のタイピング。人類の指使いの限界へと迫る勢いで、文字がうまれていく。


 'ダンジョン公社ゆうちゃんねる特別対策チームの目黒です。皆様、落ち着いて下さい。世界の安寧は既にユウト君の穏やかなる日常の維持のもとにある。それは依然、変わりません。皆様、決してよき隣人たる姿勢を崩さないで下さい'


『これはこれは、目黒さん。こんばんは。そんな諌めるようなことをされなくても良いのですよ? おいたの過ぎる方を二、三、滅ぼした方が皆様、身をもって自身のお立場というものを御自覚なさったでしょうに』


 まるで残念だと言わんばかりのクロコの口調。


 '目黒です。クロコさん、質問です。呼び出したモンスターは当然、ユウト君の支配下にあって、その意に反することはしないのですよね?'


 煽るようなクロコの声に被せるようにして、コメントを書き込む目黒。

 その内容は、否定がユウトの権威を傷つけるだろうとクロコが思うように組み立てていく。


『当然です。偉大なるユウト様の意に反することなど、するわけがありません。そしてモンスターではありません。ユウト様が呼び出すのは混沌です──ああ、ユウト様が最初の配下たる混沌を選択されましたね』


 クロコがゲーム実況の解説へと戻る。


『──コボルトをユウト様は選ばれました。とても穏やかな気質で、かつ器用。繁殖力の強い種族です。ユウト様はとても堅実な選択をされたと言えます。大穴を踏破していくにあたって、最初にベースキャンプを設営するには最適な種族でしょう』


 少し実況がトーンダウンするクロコ。

 ユウトの選択は目黒にとってはとてもありがたいものだった。


 ──一番見た目の威圧感や嫌悪感が少ないものを選んでくれてありがとう、ユウト君。これで少しは、このあとの対応が楽かも、です。──あっ!


『おお、やはりユウト様は素晴らしい。皆様ご覧になりましたか、二体のコボルトに注がれたMPを。そして、あだむといぶ。新たなる時代を象徴するにまさに相応しい名付け。さすがユウト様ですっ!』


 一気に過熱するクロコの実況。

 目黒は思わず顔を覆うと天を仰ぐ。


「……先輩方、早く戻ってきて下さいです……」


 その目黒の嘆きは虚空へと消えていった。

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