第129話 side目黒

「はいです。加藤さんのお子さん、意識は取り戻していないけど、容態は安定したんですね、良かったです」


 そういって目黒は電話を切る。

 電話は緑川先輩からだった。内容はもちろん、便宜上、加藤の養子として戸籍登録されているクロのこと。

 加藤先輩と緑川先輩の二人は今晩は病院で待機するとのことだった。


「──え、ええっ! こんな時間から」


 一人、『ゆうちゃんねる』特別対策チーム支部、対策分室に詰めることになった目黒は、驚きのあまり声をあげる。


「ゆうちゃんねる、ライブ配信? え、しかもこれはまさか、ゲーム実況配信、ですっ!?」


 ライブ配信に写ったのは、ユウト君の背中。その彼の視点先にはゲーム機とそれが接続されたモニターが映っていた。

 すぐに画面が切り替わる。ゲーム画面が全画面表示され、ユウトの顔が右上にワイプ表示される。


「使用ゲーム機は、一見PP7に見えましたが──いえ、全くの別物ですっ!」


 ちらりと見えたゲーム機をスキル、サードアイで解析した目黒。すると、PP7は外見だけで、中は全くの別物であることがわかる。それはどちらかと言えばダンジョン産の宝物に近いものに見えた。つまりは、人智を越えた存在。


「いったい、何が始まるのですっ!? 先輩方、不在なのに……」


 涙目になりながら、目黒は慌ててクロコに連絡を試みる。しかし一連の騒動以来、音信不通のクロコからはやはり反応が無い。


 同じように、ゆうちゃんねるの有料限定配信の視聴権を持つもの達も、いつもと異なる時間帯のライブ配信に気がついたのだろう。同接人数が一気に増えて、コメントが流れ始める。


 'どういうことでしょうか。事前通達がありませんでしたが'

 '今回は、いわゆるゲーム実況ですか? ユウト殿がプレイされて、実況はクロコ殿がされるのですか'

 'そうみたいですね。クロコ殿がこれを配信なさるということは、何か特別なゲームなのでしょうか。タイトルは、ダンジョン&キングダム、ですか'


 流れるコメントはいつものようにユウトとクロコに配慮して、礼儀正しいものだ。

 しかし、視聴権を持つもの達も困惑しているのが透けて見える。


 コメントに目を通していた目黒は、ゲームタイトルが出たことで、急いで検索をかける。


「ヒット件数は、ゼロです……」


 ゲーム好きを自認する目黒は、同好の知り合いにも急ぎ連絡を取ってみる。しかし、誰もそのタイトルの噂を聞いたものすら居なかった。


「完全オリジナル? ゲーム機が普通じゃないのですから、そのソフトが普通な訳、ないです……」


 ライブ配信の画面で、ゲームのオープンニングムービーが、始まる。

 それはつい最近、目黒も映像で見たことのある場所。


「虹の地平の、大穴っ!」


 'Oh!'

 'Amazing'


 コメント欄も、みな、配慮を忘れて自国語での驚きの言葉が並ぶ。


 いよいよ、ユウトによるゲーム実況配信が始まろうとしていた。


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