第116話 三度目
side オボロ
──ご主人殿はあちらか。ふむ。今のところは状況を楽しまれているご様子。少し高揚すらなされている、か。
オボロは舞台袖に立ちながら上方を仰ぎみていた。
その視線の先はユウト達のいる貴賓席。
オボロはその出自と保有するエクストラスキルの力もあって、その身の主人であるユウトの内面と一部繋がった状態となっていた。
その繋がりは当然一方通行。川で例えれば、ユウトが上流にあたり、オボロが下流だ。それは、ユウト本人が強く望まなければオボロからユウトへの逆の流れは起きない。
そしてユウトは無意識下でオボロの事を認識している程度の状態だった。
そういった繋がりで、今現在ユウトが少し訝しく思いながらも、全体的には早川との二人での非日常的な経験を楽しんでいるのを、オボロはダイレクトに理解していた。
そしてこの繋がりがオボロとクロの立ち位置の大きな違いの要因となっていた。
そうしているうちに、式の開始の時間となる。オボロにとっては今回の授与式は些事に過ぎなかった。とはいえ、式次第は完璧に把握している。
その式次第通りに進行役の話が始まったタイミングだった。
異変が起きる。
──これは、何者かからの攻撃
ユウトから繋がりを通して流れ込んでくる情報が一気に増加する。
しかしまだ、オボロはこの時は冷静だった。
ユウトの大切な人である早川は、ユウトの授けたアーティファクトの効果でその身を守られているのが、その視界を通じて確認できる。
ユウト自体も、その霧のような攻撃では当然一切傷ついていない。
──御主人殿の動きを阻害するとはなんたる不敬。それだけで万死に値する。見たところ、上方からの攻撃、か。これは他の貴賓席では被害が出ている可能性が高いの。
オボロは暗記している今回の授与式の全員の出席者のうち、貴賓席を使用しているものたちについて思い出す。
──たしかマドカから聞いた。ダンジョン公社と裏取引をしている地方議員のセンセイとやらもおったはず。その影響は我の関知するところではないが、被害が出たことはお優しい御主人殿のお耳には極力入らないようにせねば。
ユウトが心を痛める可能性に、オボロの怒りが一気に沸き上がってくる。
そしてここまで一瞬で思考を巡らせたところで、建物の揺れがおさまる。
──おお、なんと素晴らしい。御主人殿はまさに神に等しきお方。たった腕の一振りで、すべて払われてしまわれたか。……いや、違うの。まったくそれどころではないわ。我は、誠に不見識なり
ユウトの感覚が伝わってきて、オボロは初めて理解する。ユウトの攻撃が、敵の攻撃を遡って、敵本体へも大きな痛手を負わせたこと。そしてその手応えから、ユウトがそいつを打ち払うべき敵だと認識したことがオボロへ直接共有される。
そのユウトの感覚に、一気にオボロの戦意が極限まで高められる。それはオボロにとっては自身の存在自体が作り替えられていくような衝撃。
受肉をした一度目。クロを分離した二度目。それと同等以上の衝撃をもって、三度目の存在変容がオボロの内面で生じていた。
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