第117話 side ??? 4

「ぷちっと、いっちゃえー」


 きゃっきゃっと、はしゃぐアイリスの声。人魂メテオフォールが目標の建物に接触する。

 これから手にする数多の人々の苦悶と苦痛の怨念に満ちた魂を想像して、二人がにんまりとした笑みを浮かべた時だった。

 人魂メテオフォールが消える。


「──はっ?」

「あれ、パパ?」

「消え、た? いや、浄化?」


 パパとアイリスの目には、人魂メテオフォールを構成していた恨みに満ち満ちていた犠牲者の魂が、浄化され輪廻の輪の中へと回帰していく様子が映る。


「あの、量の魂を一瞬で、浄化した、だとっ」


 キャラ付けも忘れて、素の悪態がその口から漏れ出る。

 しかし事態はそれで終わりではなかった。


「──ぐぁっ、ぐぁぁぁーっ!」


 人魂メテオフォールを浄化した何かが、パパと自称している存在へも襲いかかる。

 まるで心臓を通して、魂魄そのものへ強打を喰らったかのような衝撃。

 内臓がひしゃげるような感覚とともに、体内の内容物という内容物を吐き散らし、穴と言う穴から出血が始まる。


「パパ? え、嫌だよ、嫌だ。赤字が、来ちゃうよっ!」


 それを眺めるアイリスはしかし自分の心配にとらわれていた。

 エクストラスキル『すいとうちょう』で産み出されてノートが真っ赤に染まる。

 超短期借入の、返還期限が来たのだ。


「あ、あ、赤字が……赤字が……。魂が削られて、いくよ。助けて、助けて、パパ、パパ、パパ……」


 びくびくと痙攣しながら手を伸ばすアイリス。しかしすぐにぐったりとその動きを止める。


「……はぁはぁ。ぐはっ」


 最後の吐血を終えたパパが手で口をぬぐいながら、動きを止めたビビッドピンクのぬいぐるみの腕の中のアイリスを見下ろす。


「ふん、このアイリスももうダメだな。肩代わり、ご苦労様。──おい、捨てておけ」


 全身どころか、またがる木馬のおもちゃまで、色々な液体でぐちゃぐちゃに汚れている。

 その見るもぐちょぐちょの姿でぬいぐるみに吐き捨てるように告げると、パパは悪態を残し、その場を後にした。


「くそくそくそっ。この代償は、必ず払わせてやるからなっ」


 その飛び去る汚い木馬のあとを、ステルスホログラムで完璧に存在を消したドローンが一体、追跡していることなどまったく気がつかないままに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る