第114話 side 緑川 11
「どういうことかご説明いただけますか、緑川さん」
授与式の会場の一室。ダンジョン公社で借りきったそこは、実質今回のミッションの指揮所となっていた。
そこで、ユウト達が別席での観覧となった事態について、緑川達はクロから詰められていた。
先ほどまでオボロもいたのだが、開演時間が迫ったためにすでに舞台袖に移動していた。ただ、その去り際は穏やかではなかった。御主人殿に何かあれば壇上からでも我は動くぞ、と言い残して去っていったのだ。
「ダメです、緑川先輩。ハッキングの形跡までは確認できましたが、追跡できません。少なくともウィザード級、もしかしたらデミゴッド級の可能性もあるです」
同じく観覧席を外れて、持ち込んでおいたPCに向かう目黒からの報告。
「仕方ありません。そちらは私がやりましょう。あなた達はユウト様の周辺警戒を厳になさってください。
クロが呟くとその周辺に幾体ものドローンが現れる。
ダンジョン公社の回線に割り込むと、そのAIを並列処理で稼働させ始めるクロ。
「痕跡を発見。追跡にうつります──」
そのまま沈黙するクロ。
緑川はふと、その沈黙が気になってクロの方を向く。
受肉し、幼女の体を得たクロの顔に、たらりと冷や汗が垂れるのが緑川の目に映る。
「クロさん? 汗が──何か、まずい事態ですか」
心配半分、何かユウト君の身に良くない事が起きる可能性をクロが見つけたのか危惧する気持ち半分で尋ねる緑川。
「──ぃません」
「え、クロさん? なんて?」
「すいませんでした。チケットに細工したのはクロコでした……」
「え!? それは──」
緑川が詳細を尋ねようとしたその時だった。周辺探査に切り替えていた目黒が、声にならない悲鳴をあげる。
「っ! せ、先輩! 大変です。上空にダンジョン反応ですっ! 急速に拡大しています!」
「脅威判定、急いで!」
「会場周辺に配置していた分体を向かわせました。ダンジョンを確認。これはレイス? いえ、死霊の塊──緑川さん、敵です。 迎撃失敗、分体消滅。上空より準霊体質量兵器と思われる攻撃がきます」
クロのその言葉と同時に、激しく振動を始める建物。
とっさに緑川は幼女の体をしたクロをかばうようにその体に覆い被さる。
「クロ、生き残ったら先ほどのクロコの話、詳しく教えてね」
「はい」
覚悟を固める緑川。
しかし、そのまま建物の振動は収まってしまう。
訪れる静寂。
何事もなかったかのように、緑川達は生き残っていた。
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