第108話 ホテルの一室にて
「オボロ。ごめんね。来るのが遅くなってしまって」
「マドカ、久しいな。なに、優先すべきは何よりも御主人殿だ。こちらこそ御主人殿の恙無いエスコート、痛み入る。それで御主人殿の様子は?」
オボロの部屋を尋ねた緑川。そっとその手をとり、オボロが尋ねる。
その言葉の内容はユウトのことばかりだ。しかし指先は絡むように繋がれている。
「ここまではとても楽しそうよ。国有列車も、迎賓室をわざと地味に改造した席だったのも、ばれて無さそうだったし」
「御主人殿はおおらかだからな。さもありなん。御主人殿のお部屋はどうなのだ」
「少なくともこのホテルの中では最も安全。三フロア貸し切りで、上のフロアは私と目黒、早川さんだけ。同じフロアには、ダンジョン公社の中でも戦闘能力はもちろんのこと、臨機応変な対応に長けた人物でかためてるわ」
「そして、下のフロアは我とこいつ、か。しかし同じ部屋にする必要は無いのではないか」
そういって部屋の反対側に佇む幼女をちらりとみるオボロ。
「私も不本意ですが仕方ありません。見たくもないものを見せられますし。それでも、どなたかは常識に欠けるので誰かが見張ってなければ」
「機械上がりが、粋がりおって」
「ほら、二人とも仲良く仲良く。ね?」
すっかり二人を宥めるのが慣れた様子の緑川。重ねた苦労の数だけ、いつの間にか風格すら出始めていた。クロの言葉に動じて手を離す素振りすらない。
「で、今は早川さんと二人で下野の国立博物館に行ってるわ」
「こちらでも
「あれは、ごめんなさい。その説明に来たの。色氏族が一席、
「目的は? 例えマドカでも御主人殿に害となるのであれば、容赦はできぬぞ」
「白羅ゆり、ネット上に一切データがありませんね。……いえ、戸籍情報だけ該当」
「二人とも落ち着いて。クロもハッキングはストップ」
落ち着いた表情のままの緑川。しかし人外の力を有した存在、二つから向けられた威圧に、体が勝手に反応して冷や汗が全身に吹き出す。
冷や汗まみれになりながらも、毎度のこととばかりに話しを続ける緑川。
「ちゃんと説明するから」
そういって緑川はこんなときだけ息ぴったりのオボロとクロに向かって説明を始めた。
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