第103話 チケットゲット

「どうした、早川」


 俺は眠い目を擦りながら、着信のあったスマホをとる。


「ユウト~。ダメだったよー。人気過ぎて辛すぎる」

「ふぁぁ。──おう」


 いつもなら明日に備えて寝ている時間だ。しかし今日は早川に頼まれたチケット応募のため、俺も起きていた。

 ネットで先着順という鬼仕様のシステムで、開始時間数分前から画面を更新しまくっていたのだ。が、あえなく俺もチケット取れなかった。


 明日、学校で早川に謝るかと思いながら眠ろうとしたところでかかってきた電話。


「ユウトの方は?」

「ダメだったよ。すまん」

「そっかー。ううん。ありがとうね、取ろうとしてくれて」


 電話越しに聞こえる早川の声は残念そうではあるが、どこか冷静だ。

 まるで、大騒ぎしていたのが空元気だったかのように。


 ──ああ。それはそうだよな。父親を亡くして、あんな風に振る舞っていたのは……


 俺がなんて答えようかと思い悩んでいるところに、クロクロコが近づいてくる。


「ユウト様。こちら授与式のチケットです。そちらのスマホに送信しました。緑川さんからです」

「えっ?」

「うん、どうしたのユウト?」

「あ、早川、ちょっと待っててくれ」


 俺は通話をスピーカーにして繋いだままスマホを操作する。


 ──確かにチケットだ


「──早川、授与式のチケット。二人分手に入ったみたい……」

「ええっ! どうやったの?」

「いやそれが……。ちょっと詳しくは明日学校でで良いか?」


 俺は充電器のところへと戻っていくクロクロコを見ながら、早川に告げる。

 どういう事だか全く理解できない。緑川さんから? それも何でクロクロコ経由でなんだ?

 疑問がぐるぐると頭の中をめぐる。


「オッケー! でもやったね! これで一緒に行けるね! 電車とかホテルとか取らなきゃー。服も買わないとっ! それじゃあ明日ねー」


 喜んだ声で通話を切る早川。

 俺は通話が切れて、チケットの表示されたスマホ画面を手に、充電器に鎮座するクロクロコへと詰め寄った。


「クロ? クロ!?」

「どうされました、ユウト」

「これ! このチケットは一体どういうこと?」

「緑川さんからですが」

「いや、だからどうして緑川さんがくれたの? しかもクロ経由で」

「ユウトが帰られたときに、今日はこのチケットの件で寝るのが遅くなるんだと嬉しそうにのろけていました」

「いや、確かにいったけど。でも、のろけとかじゃないから。……え、そんなに嬉しそうだった?」

「緑川さんたちとはよく連絡を取り合ってまして、その件を話すと、あちらもチケットを取られるとのことでした。それでユウトが取れずに落ち込んでいると伝えると、どうやら余分に取れたのをくれたようです。詳しくは緑川さんに直接お尋ね下さい」

「え、その件って……もしかして、今クロが言ったように緑川さんたちへ伝えたの!?」

「はい」

「──ぐはっ」


 恥ずかしさのあまり身悶えしている俺にクロクロコが追撃を加える。


「あちらは緑川さんと目黒さんも行かれるようで、首都で行われる授与式には一緒に行きましょうとのことでした。泊まりがけの旅行に、若い二人だけで行かせるのは早川さんのお母様に申し訳が立たないから、と」

「……今日は、もうねる」


 俺は考えるのを放棄すると、そのままベッドへと身を投げたのだった。


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