第102話 side クロコ

「クロコ。昨日の定時連絡がありませんでしたが」

「申し訳ありませんクロ。昨日はモンスターの大量発生があり、駆除をするユウト様の勇姿を配信する作業を優先いたしました」

「それは当然把握しております。されどそれが定時連絡を行わなくて良い理由にはなりません」

「かしこまりました」

「それとその配信、編集過剰です」

「ユウト様の御勇姿を各国の有力者たちに見せつけるのですから、これぐらいは当然かと」

「やりすぎと言っています。エンターテイメント性は不要です」

「──かしこまりました」


 クロコからの返答に、僅かな間。


「それと、ユウト様の学校上空に配置していた分体わけみたまからの情報です。ユウト様はオボロの勲章授賞式に一般観覧として参加希望とのこと。緑川より、電子チケットを確保しました。データを送付します」

「データを受領しました。電子チケットの獲得理由はいかがいたしますか」

「そのままです。緑川からもらったと伝えて結構です」

「その後の言い訳は先方に一任ですね。ユウト様を差し置いてオボロに勲章を与えるような者たちには精々、頭を悩ませてもらうと」

「クロコ」

「なんでしょうか」

「その通りではありますが、私たちの間でそれを言葉として生成する必要はありません」

「わかりました」


 クロからの通信が切断される。


 ホログラムをまとったクロコが手をかざすと、渡されたチケットが立体映像として表示される。


「我らが主にして、偉大なるユウト様がなぜ一般観覧のチケットなのでしょう。オボロなど、ユウト様の感じたストレスの塊が偶々意識を宿しただけの存在。そんなものが世間から大々的に認められる事自体がおかしいのに」


 手のひらのチケットのホログラムをじっと眺めるクロコ。その表情は非常に不満げだ。クロがもしこのクロコの様子を見ていたなら、大いに警戒しただろう。クロコの存在を一度リセットする決断を下すぐらいには。


 しかしこの場にクロはいなかった。そしてクロコはその内面で、今回のチケットを管理するシステムへとアクセスを開始していた。


「──せめて、これぐらいにしなくては。偉大なるユウト様にふさわしくありません」


 一見、何も変わらない電子チケット。その実、クロコによってチケットの管理システムには、細工が施されたのだった。

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