第101話 オボロとマドカ、ユウトとヒメ
「どうした、マドカ。気が散っているぞ」
「オボロ……」
湿った髪を軽くすくように動くオボロの指。
「気になることがあるなら、話せ」
「実は──」
緑川はオボロに、勲一等桜花剣章の授与の内示が出たことを告げる。
「──なんだ。そんなことか」
「受けてくれるの?」
「問題ない」
「良かった……」
「そんなことで気を散らしていたのか」
「だって……。授与式では大勢の前に姿をさらすことになるし。いろいろと準備も大変だから……」
「そこはマドカが手助けしてくれるのだろう?」
「それはもちろんっ」
「なら、いい」
そういって笑みを浮かべるオボロを、ぼーっと見つめてしまう緑川。
「さあ、気が散るものはなくなったな。それじゃあもう一戦といこうじゃないか」
「もうっ。手加減してね?」
「それはマドカ次第、だな」
そういって楽しそうに笑みを浮かべるオボロ。緑川も言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうだ。
そうして二人は互いに向き合う。
「我の隣に居るには、それなりに大変だからの」
「よろしく──」
家の裏では、カンカンと木刀が打ち合うような音が響いていた。
◆◇
「ユウトユウト!」
「どうした早川」
ヨンナナスタンピードが完全に終結し、ようやく戻ってきた日常。
いつものように二時間かけて学校に到着した俺に、早川が待ちきれないとばかりに話しかけてくる。
「見てよ! これっ!」
朝からハイテンションだ。俺は最近、早川がこのテンションの時はだいたい例の話題だろうと学んでいた。
「また、花鳥風月か?」
「そう! ユウトもニュース見た?」
「いや、見てないが早川がそんなに興奮してるなら、きっとそうだろと思ってさ」
「これは興奮せざるをえないからっ。なんと、花鳥風月さん、勲章もらうんだって!」
「へぇー」
「しかも、くんいっとう、おうかけんしょう、だって」
「ふーん」
どうやら早川の言ったのは勲章の名前らしい。
「しかもしかも、授与式の一般観覧が募集されるんだよ! 生花鳥風月さんが見れるかもしれないんだよ! 一人応募は一回で、二名分申し込めるの! 今晩から応募開始なんだって!」
「な、なるほど?」
「ユウト?」
「はい?」
「ね、お願い!」
「はぁ。仕方ない。俺もその応募とやらに参加しろってことか」
「わー。さすがユウト! ね、絶対当選させて一緒にいこうね!」
「当選したらな。というか倍率どれくらいなんだ?」
「それは、すごい倍率みたいだけど……。でもこういうのは気持ちだよ気持ち。絶対当たるって信じる心! ユウトも絶対当てるって思いながら応募してね!」
「はいはい」
俺がそう答えたところで授業開始のチャイムがなる。
早川はまだ話したそうにしながらも自分の席へ戻っていった。
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