第100話 side 緑川 9

「緑川、今回の件ご苦労だったな」


 ダンジョン公社本社に顔を出した緑川に、課長が労いの言葉をかける。


「ありがとうございます」

「うむ。お陰で地方議員の先生方にも十分に恩を売れた」


 苦いものを噛み潰したような顔をしながらも笑みを浮かべる課長。

 どこか獰猛な肉食獣のような印象さえ受ける。


 スタンピードの主を倒す順番について、偶々幸運なことに緑川の言をオボロが受け入れてくれていたのだ。

 その優先順を対価に、裏では課長が各先生方とばちばちにやりあっていた。


「これで、かなりの無理も通せるだろう」

「それは、何よりです」

「それで、だ」


 緑川はきたかと、身構える。ここまでの話は当然緑川も把握していたこと。わざわざ本社に呼び出されるということは、それなりの案件があるとは覚悟はしていた。


「オボロへ、勲一等の授与の話が出ている」

「女性で、準戦時下によるものということは……もしかして勲一等桜花剣章、ですか?」


 それは勲一等の中でも特別なものだった。

 女性で、かつ戦いに置いて特出した戦果をおさめ、国に多大な貢献をしたと認められた証。

 今回の件で言えば、まさにオボロに相応しいものと言える。

 そして、実際に授与されれば、歴代でオボロが二人目の授章者となるのだ。


「そうだ。一般公開した授与式典も予定されている。そこでは、今回のヨンナナスタンピードにて功績のある他の者たちへの勲章授与も行われる予定だ。まずは緑川、オボロ本人への内示と受諾をとらねばならん」

「オボロさんの行動は、事が、ユウト君のためになるか否かに依ります。前にもお伝えしましたが、一般的な判断基準は全く当てになりません」

「理解している。しかし今疲弊した我が国の国威発揚のためには、必須なのだ。何よりも、勲一等桜花剣章の授章者となれば、我々がオボロのためにはかれる便宜も桁違いに大きくなる。よろしく頼む」


 そういって、深々と頭を下げる課長。


「わかりました。尽力します」


 そう告げて、緑川も退出するしかなかった。オボロを国公認の英雄として祭り上げる任務。それを課せられた緑川の背中はどこか煤けて見えた。


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