第67話 オフ会の裏で 2
「こちらコードグリーン。マーク中の『教団』信者らしき存在を視認! なぜ奴が入り込んでいるの!」
変装して、潜り込んだジョゼ三世というライバーのオフ会。袖口のマイクに向かって私は小声で非難をする。これでヴァイスとの触れあいは確実にお預けだろう。
「こちらコードホワイト。済まない。監視の隙をつかれた。コードワンはハローフューチャーの手引きの存在を示唆している。妨害は可能か」
イヤホンから流れる加藤の謝罪の声。
──コードワン、課長はハローフューチャーの関与と見てるのね。またしても、か。これは先日のアトミックビー襲撃も、かの国の仕業と見て間違いない。厄介ね。私、あの女嫌い。
「無理よ。黒き黒に気づかれてしまう。あっ、黒き黒と接触! な、に、これ……」
「どうしたグリーン! ブラック、グリーンのフォローに向かえるか?」
「こちらコードブラック。無理です! こちらも早川さんがジョゼ三世と接触しました」
目黒の少し焦り気味の声。
「グリーン、報告を!」
「こちらコードグリーン。黒き黒によって、教団の信者の無力化を確認」
「無力化? 一体どうやって?」
「たぶん、デコピン。それも当ててない」
「──済まない。もう一度頼む」
「だから、デコピンよ。それに何でかわからないけど、私のユニークスキルに反応があった。多分だけど、それ以外の何かを、引き起こしてるわ。……しかもこちらは問題無さそう。教団信者は、憑き物が落ちたみたいな顔をして会場から、……いま出た」
「そちらは至急確保する!」
「み、グリーン先輩」
目黒が呼び方を間違いかける。よほど焦っているようだ。
「どうした?」
「大変です! なぜかジョゼ三世がうずくまって、早川さんがオロオロしてますです!」
「……」
「……そっちはそっちで、何が起きてるんだ一体」
「とりあえずスタッフに偽装している課員二名を踏み込ませますです」
「こちらコードグリーン。私もそちらへ向かう!」
◆◇
私が目黒とジョゼ三世のいる小部屋へ踏み込んだ時には、そこはカオスだった。
幸いなことに目黒の機転で、うちの偽装したスタッフがさっさと早川さんを、ユウト君のいる会場へと送ってくれていた。
「先輩、どうしましょ、これ」
目黒の指差す先、床に這いつくばって恍惚の表情を浮かべながら手には溶けたようなプラスチックを持っているジョゼ三世。
うわ言のように、真なる神の息吹がとか、屈服こそが約束の地、とか呟いているのが聞こえる。
「ジョゼ三世は教団との関与が疑われている。確保するしかないでしょ」
そこでイヤホンから課長の声。
「こちらコードワン。グリーン、このままのイベント中止は黒き黒が不審に思う可能性が高い。それだけは避けなければならない。不本意だろうが、お前にしか頼めない。緊急プランCへ移行だ。ブラックも、頼む。よき隣人たらんことを」
「コードグリーン、了解、です」「コードブラック、了解です」
「先輩……」
「良いの、一思いにやって」
偽装したうちのスタッフが、目黒の純白のスーツケースを小部屋へと運び入れてくる。
「目黒さん。猶予は三分です」
「了解です。はあ、これだけは恥ずかしいです。『目黒のミラクルメイクアップ、スタート』、です」
目黒の口にしたキーワードに反応して、純白のスーツケースが開く。なかに入っていたのは純白の化粧品の数々。
目黒は自分の意思とは関係なく手が勝手に動き出した様子で、私の顔へとメイクが始まる。
みるみる、私の顔が書き換わっていく。
ユウトから渡されたしおりによって目黒が手に入れたこれらは、完璧な他人への偽装を可能とするアーティファクトだった。
そして、課長の言っていたプランCとは、私がジョゼ三世に成り代わってイベントを最後までこなすというもの、だ。
「緑川さん、念のため、イベント進行表です。あと、二分です」
偽装したうちのスタッフがそっと話しかけてくる。
──幸いなことに、今日はまだ幸運のお世話になっていない。なんとか乗りきれるはず。でもやっぱり今日もヴァイスとの戯れはお預け、ね。
私はジョゼ三世に化けながら、必死にイベント進行表に目を通していった。
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