第65話 オフ会へゴー 4

「やった! やったよ! ビンゴっ」


 早川がスマホを掲げて喜んでいる。今にもぴょんぴょんと跳ね回りそうなぐらいだ。

 スマホ画面の中のビンゴカードは綺麗に穴がならび、見事特別賞を獲得していた。


「おめでとう~。特別賞獲得のビンゴの人は係りの人がいくからね~。じゃあ、みんなはしばらく歓談しててね~。次のイベントも準備するから~」


 ジョゼ三世はそう告げると奥へと引っ込んでいく。


「早川──」

「行ってくるね、ユウト!」

「おう。気をつけて」

「え? うん!」


 スタッフの人らしき人物に、早川が連れられていく。俺はその後ろ姿を見送る。そして一人残された俺は、ポツンと佇む。


「……飲み物でもおかわりするか」


 独り言を呟いて俺が歩き出した時だった。

 会場内に、不思議なものが見える。他のお客さんは若い人が比較的多いのだが、その気になった人物は中年をやや過ぎたぐらいの男性だった。

 全身、真っ黒な衣装を着ている。こういう集まりではあるが年齢を考慮すると相当尖った衣装だと言える。


 そして、何より不思議だったのが、うっすらとした影がその男性の頭の後ろにぼんやりとくっついているように見えたのだ。


 ただ、いつもの影を感じたときのゾクッとするような感覚は全くしない。逆にどこか、その影に懐かしさすら感じる。


 不思議に思いながら飲み物を買いに俺が歩くと、たまたまちょうど目の前にその影がくる。

 何の気なしにデコピンのように人差し指で影を軽く弾いてみる。


 ──あ、消えた。というか、やっぱり見間違いかな。


 不思議に思いながらも、まあいいかと、飲み物の列に並ぶ。少し並んで俺は再び『深夜ライブ』を二個、購入する。

 そのまま元いた場所に戻ると、ちょうど早川が戻ってきた。


「お帰り、早川。これ」


 俺は『深夜ライブ』を片方、早川に手渡す。


「ありがと、ユウト」

「どうした。難しい顔して。例の件は教えてもらえなかったか?」

「うん。それもなんだけど……。なんかちょっと変なことがあって」

「え、大丈夫なのかっ!」


 俺は思わず早川の全身を確認してしまう。


 ──怪我などは、見当たらないが。


「あ、うん。私は大丈夫なの。ジョゼ三世さんがちょっと変になったというか……」


 上手く言葉が見つからない様子の早川。そうしているうちに、次のイベントが始まったのだろう。再びジョゼ三世が会場に顔を出していた。


 ただその顔面は、ここから見てもわかるほど蒼白だ。

 顔の黒い刺青と、蒼白な顔面のコントラストがくっきりと目立っていた。

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