第61話 二人のユニークホルダー

「どの未来でも邪魔をするのね、『不運ハードラック』」


 宙を睨んだまま呟く、セリアス。骨の破壊と再生という激痛ですら色褪せない美貌を悔しげに歪めている。


「さすがは色氏名しきうじなの系譜。どこまでも目障りです」


 ユニークスキルにも、序列がある。


不運ハードラック』も『未来視ハローフューチャー』も共に高位のスキルだ。しかし、ハードラックはハローフューチャーよりも、ちょうど一つ、上の序列に位置していた。


 さらに言えば、運命そのものに干渉できるハードラックは、ハローフューチャーにとってはまさに天敵とも言える存在だった。

 運命操作系の力のみが唯一、未来視で確定したはずの未来を書き換えてしまう。


「それでも、僅かな道筋は見えている。我が祖国の民たちの、生き残りのために。一人でも多くの赤子たちがつかの間の安寧を得るために。そのためならば私は……」


 セリアスが、その先の言葉を発する事は決してない。未来視で見た情報の価値を、彼女は最も知るがゆえに。

 ただ、部屋に部下たちを呼び戻すと、次々と指示をだしはじめるのだった。


 ◇◆


 side 緑川


「こちら緑川。配置につい──くちゅん」

「緑川先輩、風邪です? 疲労がたまってきたのではないです?」


 耳につけた無線のイヤホンから目黒の心配するような声。緑川は応答ボタンを押して応える。


「問題ないわ。はあ、でもこれでヴァイスとの触れ合いも、今日はお預けか……」


 すっかり子猫のヴァイスに愛着がわいていた緑川は、自分に制約をかしていた。疲れているときは、ヴァイスに触れない、という制約だ。


 ヴァイスは緑川が触れると、その疲労を積極的に癒そうとしてくれるのだ。自らが、病んでしまうことなど、全く考慮せずに、だ。


 それはとても愛らしい反面、すっかりヴァイスに骨抜きになっている緑川にとっては、苦悩の種だった。ヴァイスのためには、触りたいけど触れないという、葛藤。


「緑川先輩、対象が到着しますです」

「こちらからも目視。──移動を開始するわ」

「了解です」


 緑川はいまは仕事に集中、とばかりに気合いをいれる。幸いなことに今回のユウトと早川のオフ会参加についてはクロより事前に垂れ込みがあった。そのおかげで、不幸の前借りをしており、準備は万端であった。


 駅から歩くユウトと早川を見守る緑川。その様子はユニークスキルの効果もあって、完全に町の風景に溶け込んでいた。


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