第60話 side ハローフューチャー

「『教団』とのコンタクトは、新たな代表者との間でも生きているのですね」


 真っ白な不思議な形をした椅子に座った白銀の髪の若い女性が、部下らしき人物に問いかける。

 その玲瓏な面差しはどこまでも冷たく、澄んでいた。


「はい、セリアス部長。『教団』の前宗主だったハワードから、我々へのコンタクト手段のみ引き継いでいます。こちらの素性は把握されておりません」


 部下らしき人物が報告書を渡しながら口にしたハワードという名。

 彼は元対『ゆうちゃんねる』特殊工作部隊のメンバーであり、アトミックビーの巣の接収作戦に参加した生き残りだった。


『黒き黒』の姿を目にしたハワードは部隊から離反。『黒き黒』を真なる神と崇める『教団』を作り上げていた。

 セリアスは自らのユニークスキル『未来視ハローフューチャー』を使い、ハワード率いる『教団』との友好的な接触に成功していた。


「ハワードは死にましたか。優秀な男でした。黒き黒に魅いられてすっかり変貌してしまいましたか」


 ハワードの所持していた『黒き黒』のスマホ写真画像。何度も繰り返しその画像を覗き込むことで、身体的な変質すら生じるようだった。

 ハワードの死因も、それだ。

 後任の宗主に就任したリゲルドは、それを殉教と呼んでいたと、報告書には記載されている。


「現在、教団は現地のダンジョン動画配信者の取り込みに動いているようです。既に数名のライバーを啓蒙済みでした」


 部下からの報告。


「『教団』の目標とされている『黒き黒』の覚醒は変わらないのですね」

「変わりありません。このまま教団との接触を継続されますか」

「事態は把握しました。ユニークスキルを使用致します。下がりなさい」

「はっ。御武運を」


 退室していく部下。

 セリアスの座った椅子が動く。

 平らになったそれは、まるで手術台のようだった。

 背後から、医師の一団らしき者たちが現れスタンバイする。


「ユニークスキル、発動します」


 セリアスの声と共に変化が起きる。

 セリアスのユニークスキルハローフューチャーはその名の通り、未来を垣間見ることのできるスキルだ。そしてその代償は、未来を見ている間、全身の骨がランダムで骨折し続けるというもの。


 バキボキと、セリアスのすらりとした肢体の各部が次々に折れ曲がっていく。

 無表情のまま、ただ止められない悲鳴だけがその口から漏れる。

 しかしセリアスはユニークスキルの使用を止めない。


「バイタル、危険閾です。霊草から精製したポーションの静脈注射を開始します」


 医師が注射針を突き刺す。

 折れるそばから治っていくセリアスの骨折。


 そのまま、何度か注射が繰り返される。


 そしてようやくセリアスのユニークスキルの発動が止まる。


「ポーションの、残量は?」

「あと、13回分となります」

「ご苦労様。下がっていいわ」


 手術台が、椅子の形に戻る。未来を見てきたセリアスは厳しい表情で宙をにらみ続けていた。

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